土地の規制緩和策と巾着田の宅地開発

2月2日の「第2次巾着田整備事業?」で、巾着田の宅地開発について書きました。ここでもう一度触れておきます。
 巾着田も土地の規制緩和による宅地化が行われ、進入路に沿って家が建築されました。実際に建築が行われた以外にも、管理事務所近くの田んぼの売買がありました。このことについて初めて書かれた文章は、文化新聞の平成20年、3月1日付の記事です。以下に、冒頭部分を引用します。
巾着田の民有地に宅地開発の話が浮上したのを受け、日高市は景観保全を目的にこの土地を購入する方針を示し、3月議会に提案した平成19年度一般会計補正予算の中で土地購入費として1000万円を計上した。市が取得を計画しているのは、巾着田進入路に面した管理事務所北側の面積510平方メートルの農地。この土地は市街化調整区域の農地だが農業振興地域には含まれておらず、土地規制緩和(都市計画法第34条11号)による開発が可能であり、地主から土地を購入した不動産会社から農地転用や宅地開発の申請が出されていた」

 この記事を読んで、やはり、こういうことが起こったのか、という感じでした。土地の持ち主が売りに出したこと自体は違法でも何でもないから、ここで触れるのも、背景にある政策やその周辺のことであることをお断りしておきます。
 この記事によると、「農地転用や宅地開発の申請が出されていた」とあるから、申請が役所に出されて市は気が付いた、と推定できます。そして、「市は巾着田の“景観保全”を目的に用地取得する方向で不動産会社と話を進め、補正予算巾着田維持保全事業の一環として土地購入費を計上した」
 市街化調整区域のまま開発・建築を可能とした規制緩和策は、平成15年から日高市全域に適用され、平成17年4月に県からの権限移譲で条例化され、その後平成20年4月より適用地域が縮小され現在に至っています。
 一部の基盤整備された優良農地を除く全調整区域が対象となり、無秩序宅地開発が行われました。巾着田も例外ではなく、田んぼを含めた進入路沿いの土地の管理事務所裏までが対象となりました。どこまでが対象となったのか、適用開始時に発表された地図を見ると大体わかります。
 県道からの進入路の両側の地帯が対象です。向かって右側が全部、現在、2棟が建築済み、1棟が建築中です。左側は入ってすぐの左側、現在の市民農園のところからホタル飼育水路に沿って管理事務所裏まで。地図で示すとこうなります。

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 大雑把なのですが、ブルーのラインが宅地化を可能とした地帯を区分するところです。これは、「日高市区域指定図」の「都市計画法第34条の第8号の3の規定に基づく区域」を参照してのものですが、私の引いたラインは、土地の境界を正確に示したものではない大体のものです。
 さて、これでどういうことになるかが想像できます。つまり、市は、進入路に沿って管理事務所裏までの宅地化を促進したかったのです。土地が全部売れたら、進入路からの両側に住宅が並ぶ景観が現われる可能性があったのです。
 一方で、巾着田を貴重な観光資源、自然環境の保全といい、一方でこのような計画性のない土地政策の矛盾、どう考えたらいいのでしょうか。巾着田規制緩和にさらすことは農業関係者からの強い反対があったと聞きます。
 結局、1件の売買が行われ買い戻しに1000万円の税金が投入されました。もしこれが数件あったとしたら買い戻しの額は数千万の額になった、そういう現実的可能性がありました。特に反対があった巾着田規制緩和にさらせばどうなるか、わかっていての推進の結果として買い戻し1000万円、はたしてこの支出は妥当なのだろうかという疑問が湧きます。
 新聞によれば、今後は「進入路の内側についてはできる限り保全していく」と市は言っているそうですが、それは、どんな根拠に基づいているのかも不明です。
 規制誘導も行われていない、かと言って住民参加の計画手法もないところに、野放図な土地政策が導入されればどういう結果になるかは明らかです。このことは、巾着田のみでなく日高市全域について言えることです。
 原則的な土地利用構想を無視した下水道未整備地域への宅地化誘導で家が建ち、将来、汚水処理や排水で問題が起こってやはり下水道は必要だ、建設しろ、という声がどこかから起こらないとも限らない、こんな懸念も出てきます。
 巾着田の土地購入資金の1000万円は、平成19年度一般会計補正予算として3月議会に提案されました。新聞記事を見ての質問として、巾着田の法的保護の必要性を―議員が問うていますが、都市整備部長の答弁「日高市が持っております自然環境、そういったものもしっかり保全するようにマスタープランのほうに生かしていきたい」。
 規制緩和実施以前も総合計画に基づいた土地利用構想がありました。それを実質的に全く無視する形で規制緩和は行われました。守ってこその計画であり、政治的思惑や利害で捻じ曲げられてはならないと思うのです。