里山資本主義講演会


駿河台大学で開催された「里山資本主義のススメ」講演会。講師はNHK報道局プロデューサーの井上恭介氏。
驚きました。私が会場に入っていったとき、大きい講堂がいっぱいで、これは相当な人数だと思いました。大学理事の挨拶の中で、600人収容がほぼ満席であると明かされました。
新聞とケーブルの2つの地域メディアが主催で相当な宣伝を行ってきた成果もあるでしょうが、飯能市エコツーリズムに関係する内容でもあることから市民の関心も高かったようです。近隣の日高市をはじめ林業が地場の産業として存在する周辺自治体も後援に入っていました。飯能市の環境団体やエコツーリズムに関係する団体が全て(と思われる)招待、紹介されていたことは、小さな活動や工夫から始まりそれらの連携を大事にする里山資本主義の趣旨を表現するものだと思います。
主催 飯能ケーブルテレビ(株)、(株)文化新聞社
共催 駿河台大学、飯能商工会議所、飯能信用金庫
後援 埼玉県、飯能市日高市毛呂山町越生町ときがわ町飯能市教育委員会、西川地域林業対策協議会、日高市商工会、西川広域森林組合、飯能ロータリークラブ、日高ロータリークラブ
もともと、NHK広島で放映されたドキュメンタリー番組で、単行本『里山資本主義』はその副産物、いや同時発想企画です。ネーミングに新規性があったせいか、発行部数は40数万部に達しているとのこと。過疎に直面する地域での生き方や起業や産業の可能性など、日本の地方が直面する課題に正面から全体的に応えており、地方の読者を捉えたようです。また、働くことの過酷な環境が進む中で、何か新しい生き方を感じさせるような身近な実話が、都会の読者に何かを感じさせたのではないかと思います。
本の内容構成は、マネー資本主義の理論編を中間総括と最終総括で2章分、藻谷氏が書いており、テレビ取材の実話について井上氏ほかNHKスタッフが書いています。
講演は、内容構成を反映したいくつかの成功事例についてでした。
中心は、間伐財を原料とする木質ペレットのエネルギー利用の成功の話しです。中国山地と国家的に成功しているオーストリアを比較対照しながらの進められましたが、この話しは分かり易い。日本の山が荒れ放題でお金にならず、国策によって広められた杉の植林は、花粉をまき散らすだけで何の役にもたっていないことは誰でも知っています。マネー資本主義による国際的需給の結果でどうしようもないことだということも何となく知っており、やむを得ないものだと受け入れてきました。
その常識に反し、工夫と努力によって森林もお金を生む産業になる可能性、経済的成功を、日本の過疎地域とエネルギー先進国オーストリアの実例で示してくれたことが、里山資本主義の最も大きい貢献です。森林をまちの将来可能性に大きく掲げている飯能市にとっては大きな示唆ある話しだったに違いない。
しかし、木質ペレットバイオマスは、農水省の肝いり補助金事業とし、何年も前から推進されていたはず。飯能、日高市でも具体的な話しはありました。そういえば、日高市役所のロビーに置いてあったペレットストーブ、あれはどうしたんだろう。当初は、利便性と意義について詳しい説明入りで産業化も謳っていたと思う。
農水省の大規模なバイオマス補助事業について調べたことがあるが、ほとんど成功していない。霞ヶ関農林水産政策研究所の講演を聴きに行った際、農水省の1階で、こんな光景を目にしたことがありました。このことは以前書いたかもしれない。一人の老人が職員に話しかけていました。どうしてバイオマス事業がどこでもうまくいってないか、話しを聞きに遠いところから来たんだ、と。ロビーでの応対で済まそうとしていた職員は、結局、部屋にいきましょうとエレベーターに向かいました。
よく覚えています。1階の広報スペースで資料を見ながら耳を澄ましていたので。農水省も情報はしっかりと持っているから補助事業に取り入れたり先行はしますが、実態は継続にまでなるものは少ないようです。
話しは後先になりますが、講演後にどなたかが質問していました。飯能でも、このペレットボイラーをやろうとしたがうまくいかなかった、なぜか、と。講師の回答はよく覚えていないが、成功話の背景には地域性や事業に関わるいろいろな要素があるので一概には言えない、よく調査・比較すべきだ、という内容だったと思います。
当然の回答だったと思いますが、私が思うに、講師も内心では思っているに違いないが、“モチベーション”、要するにやる気・動機の問題だと思います。こう言ってしまっては、身もふたもないし失礼になるから言わないでしょうが、本の中で講演でも強調していたことは、楽しむ・面白がる、ということです。そこから生まれる関心と動機が、継続と推進、改良等の産業化に転換し強固な基盤となる、本を読むと成功の背景はそういうことではないかと、私は解釈しています。
里山資本主義に対する好意と嫌悪、どこで評価が分かれるか本では書かれています。大人の理屈・議論ではあまり登場しない「楽しむ・面白がる」ということの内発性、自己回転力、推進力に気が付くことだと、私は理解しました。
そのことに関連して、里山を生活の中で実践する話しも紹介されましたが、これは日高市飯能市はもとより後援自治体では、昔から行われてきたことで余り感動する話しでもないだろうと思いました。そこから里山資本主義に至る道筋は、話される事例によってイマジネーションを起こすにはパンチ不足。そこは本を読めばいい、300頁を超す新書には、楽しむ・面白がることの導火線に火をつけ、もしかしたら爆発するに至るかも知れないものがあります。
とにかく本は面白い。または何だ、これはと思うかもしれない。先に書いたように、自分の価値観を測るバロメーターになるかもしれない。NHKの動画サイトで放送されたものも見ることができるらしい。大久保飯能市長は名栗で育ったとのこと、森林を活かす上流地域の意気込みを語りました。
最後の挨拶をされたときがわ町の関口町長は製材会社社長であり、森林に造詣深く、話すこともこの講演会の趣旨にがっちりとかみ合っており、町政に活かす経営志向を感じました。
日高市の市域に占める森林面積は、1175 ヘクタール、市域の約25%。森林の再生や利用、バイオマスという言葉は、あまり聞こえてきません。日高市はマネー資本主義と里山資本主義が同居する地域で、活用のやりかたによっては非常におもしろい、地方創生、地域再生両面への活用可能と思います。
谷ケ崎市長は見えていませんでした。市議にも案内がきていたが、4人の方の姿を見かけました。