イオンアグリ日高農場――第3回

 平成23年9月1日に開場したイオンアグリ日高農場について、3回目の記事です。農場と言えば、どんな栽培を行っているのかが一番肝心なところ、これを書かないと農場に関する記事にはなりません。
 栽培法は、前回に書いたイオンの10ヘクタールの栽培ビジネスモデルが基準になります。10ヘクタールで採算がとれる農業、10ヘクタールにどれだけ資源を投入してどれだけのリターンを見込むか、企業農業は明快です。
 また農業専任のプロパー社員が担当するとは言え、栽培技術を介した投入とリターンの仕組みが、誰にでも可視化されていなければなりません。この辺は、私がお会いした担当者が話したことではありませんが、企業農業の背景を考えれば、恐らくこういうことでしょう。
 さて、栽培法です。野菜の生育に必要な自然条件と人為的条件は何かです。水と肥料と温度です。自然と人為を組み合わせて、その組み合わせの最大効率を発揮させてリターンにいかに反映させるか、が問われるのだと思います。
 まず畝を見ないと何とも言えません。見せていただきました。その時は白菜の収穫が終えたばかりで、6月頃収穫予定のキャベツの苗が植えられたばかりでした。

 その前に水です。水は企業農業に必須です。必要な時に必要なだけを冠水でき、防除(消毒)薬剤の希釈のためにも蛇口をひねればすぐ出る水が必要です。これは圃場入口に井戸が掘られ、自家水源を持つことでクリアしています。
 小学校の友人に、葉物専門の農家を経営している者がいるが、彼に聞いたことがあります。品質を保つ栽培のために決定的に重要なことは何かと。答えは水でした。畑に水道が引かれスプリンクラーでの一斉散水が可能となって、飛躍につながったと言っていました。だから、水は当然の条件です。
 畝を見てビックリしました。畝幅、植え幅とも狭い。よくこんな狭くて、と思いましたが、これでも広い方に調節したと言う。この狭さがノウハウの最大の点かなと思いました。密植、多収の技術です。これを可能にするのが肥料と防除の技術です。
 肥料は、畝を見ると化成らしきものがパラパラと見えます。聞いてみると、肥料は化成と有機質(蓄糞)の混合を、肥料会社の配合にまかせてやっているという。これだけの広さで自家肥料などとても無理なので、それは当然の選択です。今は寒い時期で雑草は問題ありませんが、季節になるとマルチと防除で雑草対策を行うようです。
 聞き逃しましたが、トンネルなどの保温資材は使わないのではないかと思います。保温が必要な葉物は、まだ出来ていないハウスでやり、重量野菜は保温なしの露地での栽培が基本です。第一、トンネルなど保温資材を使える畝幅ではないし、そんな手間がかかるコストアップはやらないでしょう。
 以上であれば普通の農家と余り変わりありません。違いは何か。それは、季節と経年の変動要素に晒されることなく、誰が担当しても水準以上の平均で良品ができる仕組みにすること、だと思います。そのために、技術の産官学の共同研究を熱心に行い、「生産者の知恵を科学的にデータ化分析したものを蓄積して、新たな知見の水平展開」を行うと謳っています。
 これが出来るのはイオンだからこそです。直営農場での生産から物流、加工、販売まで一貫してのビジネスシステムを構築できることは最大の強みであることは明らかです。「産学官」「農商工」が一体となった生産体制づくりで、どんな可能性が生まれるか。スーパー、流通のこれからの勝負はいかに品質のよい生鮮野菜を提供できるかにかかっていると思います。
 ここで強調したいことは「いかに品質がいいか」です。「いかに品質がいいか」は当然、「無農薬で味がいい」ということ。まぁ、当分の間はできないでしょう。自社販売の一貫体制であるから試行は可能です。
 最後に、農場責任者のI氏に聞いてみました。
 「有機でやる希望と方向は?」
 「無理! 無理! ムーリ!」と明快、気持ちのいい否定です。当然ですね。 
 「しかし、そのうち挑戦してみたい」と意欲を口にしました。
 分かっているのです。玄関、入口が違うことを。私も、否定の言葉が出るのを分かっていての質問です。
 お互い「入口が違う世界だからね」というせりふの一言で了解です。
 イオン農業にとって、栽培法研究の産官学共同もサプライチェーンに適合するためであり、有機などということは無縁の世界です。しかし、企業農業人としてのI氏の口から、はるか彼方の希望とは言え、「やってみたい」という言葉がでました。
 応援しますという言葉で農場を後にしました。