再び、ミツバチのこと

 先日、EM菌愛好者の団体の研修旅行に便乗して茨城県にメロンとイワシを食べに行きました。メロンとイワシのどちらに魅力を感じたかというと、EMでメロンを作っている農家の栽培方法の秘密を垣間見たいことがまず第一でした。
 EM菌については、一般的にはEMぼかしとして、生ゴミを発酵させる菌としてよく知られています。私は、自然農業で用いる土着微生物との対比で浅い知識を持っているにすぎませんでした。また、愛好者からは常々その賛美・推奨の言葉は聞いておりました。言葉ではない実物のメロンの美味しさを味わうのもいい、と思っての参加でした。
 行きのバスの中でミツバチの話題が出たので、私が日高市での事例と農業分野で大変な状況になっていることを紹介しました。そうしたら何と、同乗者の中に養蜂を専門的にやっている人がいたのです。
 その人は15群飼っている中で生き残ったのは5群とのこと。もちろん、原因は分からないということで、日高市だけでない近隣地区でも蜂群崩壊症候群が発生していることが分かりました。
 そうすると、これから向かうメロン農家のミツバチの状況がどうなっているか、俄然、関心が高まります。ハウスの中の受紛最新状況が聞けると思うと楽しみでもあるが、どいう話になるか怖い気もします。
 バスの中での会話はもっぱらEM菌の用法と効果について。まだこれから使う、という初心者の人もいましたが、何人かの人は、専門的用語を自由に駆使してEM菌の理論と実践を披露してくれました。農家の人ではないらしいが、その造詣の深さには感心しました。
 しかし、栽培条件と作物の状況に応じて、あのタイプ、このタイプの菌を使うという話が多く、自然の観察に基づく話が少なかったように感じます。科学的分析の装いに埋没してしまうと何か大事なものを忘れてしまわないか、そんな思いも抱きました。
 海を間近に見ながらメロンに農家に到着。ハウスに隣接して、立派な直売店とレストラン、駐車場を備えています。メロンの甘い匂いと熟した臭いが入り混じって漂っています。直売店の反対の畑に選果され捨てられたメロンがゴロゴロところがっていました。
 メロンレストランで農家(法人らしい)の社長の話を聞きました。まずは型通りに規模の話から。イチゴ3ヘクタールにメロン4ヘクタール。すごい規模である。驚きました。作業要員に外国人を大勢雇用しているとのこと。農作業に地域で2000人、生産額のかなりの部分が外国に送金されていくようです。
 誰かがミツバチのことを質問し、いよいよ核心の話の開始です。開口一番「いなくなった、困っている」。……やはり、です。
 ミツバチ業者1社だけに頼っていたので確保に苦労、何とか秋までのミツバチは確保したが、先は暗いという。そこで自分でミツバチを5群飼い始めた。花が少ないので砂糖を与えている。なぜ花が少ないか――海が近いので潮風が強く空気中の塩分で果樹が育たないらしい。砂糖は1週間に1斗缶1つ。砂糖代もバカにならない、ハチに刺されるし、と苦労している。
確認はしませんでしたが、ミツバチはマルハナではなく、普通の西洋ミツバチを入れているのではないかと思います。セイヨウマルハナバチ特定外来生物に指定されていて許可が必要だし、ハウスの外に逃げ出さないよう厳重な管理が必要です。これが逃げ出すと生態系を乱す一因になると言われています。自治体によっては、逃げ出したセイヨウマルハナの捕獲を推進し、市民に呼び掛けているほどです。
 ミツバチを業者から借りることもできるが、1群2万円、ハウス100棟あるから200万円。どうやってもコストアップである。トマトはトマトトーンというホルモン剤で代用できるが、出来も味もいまいちで、タネもいいものができないという。
 ハウス現場での話を聞くとミツバチ蒸発の話はいよいよ現実性をもって迫ってきます。これからどうななっていくのか。原因は解明されるのか。
 深刻な話ではあったが、メロンはさすがに美味しかった。来た甲斐があったというものです。そしてミニトマトも甘く、いくらでも食べられる感がしました。この美味しさと連作25年という栽培の秘密は何だろうか。
 帰り際、私は社長にそっと微生物の扱いを尋ねてみました。
 社長曰く「EMはぬかのぼかしを作る時に使う」「堆肥は200トンくらいの牛糞を入れる」「そこにいる自然の菌が一番強く他の菌を入れても勝てない」「………………(特に秘す)」――この前後にはいろいろの説明が付きましたが、この4つの言葉の背景には、理屈だけでは説明できない自然の仕組み、大失敗の経験と改良の工夫があります。微生物の奥深さを思いました。