“特別公務員かつ政治家”としての首長

 日替わりで舞台が変わり、役者も入れ替わる昨今の政治状況はバラエティ番組を見ているようです。いま下火になりましたが、その舞台にまた役者登場、いや乱入です。
 その強力な役者とは、言わずと知れた東国原宮崎県知事と橋本大阪府知事です。橋本氏には、中田横浜市長松山市市長ともう一人神奈川県開成町?(うろ覚え)の3人がついていました。
 テレビを見ながらいくつかのことが思い浮かびました。
 この2人の主張は連日マスコミで報道されているから、どなたでもご存知でしょう。簡単に言えばこういうことです。
 宮崎県知事は「自民党から選挙に出るから、自分の人気の見返りに、我を総理大臣にせよ」と前代未聞の要求です。本人は大まじめの“政治信念”のようですが、この吹っ掛けぶりと取引の行方にテレビが沸騰しました。大阪府知事は「ぼったくりバーを本気で止めさせる気はあるのはどちらか」と思わせぶりの天秤にかけながら競わせつつ、高く売りつける算段でした。
 さすが2人ともテレビ出身です。宣伝と効果を上げることに最大限の計算をして「千載一遇」のチャンスと見たのでしょうが、結果はご承知の通り。前者は、舞い上がりを露骨な猟官と見られて反感が起き、後者は、特定政党支持について疑念を抱かれました。
 結果はともかく、自治体の首長がこんなに派手な政治活動を行うことは以前はあまり見られませんでした。特定の政策については、政府の方針に反対する自治体の首長はいました。例えば、基地や原子力の問題、ダム建設の可否、イラクへの自衛隊派遣、合併の可否などです。反対の矛先が国家としての対外政策や基幹政策であればあるほど、また反対の真っ向振りが目立てば、マスコミが取り上げ、報道しました。
 合併の方針一辺倒で進む日高市の合併に疑問を抱き、私は平成15年仲間と勉強会を立ち上げ、講演会の開催を企画しました。2度目の講演会の講師として招いたのは、合併反対の理論家市長として有名だった加茂市市長の小池清彦氏です。
 送られてきた講演会配布資料は2種、『国を亡ぼし、地方を亡ぼす市町村合併に反対する』と『自衛隊イラク派遣を行わないことを求める要望書』でした。その資料を読んで、私は強い印象を持ちました。当時の趨勢からしてみると、合併反対の上にさらにイラク派兵に反対することは、保守政治家としてはなかなか口にできないことです。まして、小池氏は自衛隊中枢の幹部を歴任してきました。“政治家”小池清彦氏の信念に基づくものであったと思います。
 さて、知事や市町村長など自治体の長は、二つの身分を持っています。特別公務員と政治家です。一般の公務員が公務員法によって政治活動には厳しい制限を受けるのに対し、首長はその適用を受けません。
 予算や便宜に反映させたり、職員に強要しない限り、どんな政治的信条の発露・行動は自由です。それが「特別」の所以であり、むしろ主張や信条を鮮明に発露してこそ政治家としての本分とされるわけです。公務員としての仕事ぶりと政治家としての主張・行動の併せてのものが選挙民の選択の対象となります。
 公務員としての時間帯に特定政党を支持する行動を行ったり、公務員としての肩書を使用することに疑問を呈されることもあるようですが、その辺の線引きはなく、賄賂、談合、、強要などがなければ全く自由なわけです。
 東国原、橋本の2人の知事の行動は、「特別公務員・政治家」の究極の発露でした。それでは、特定の政策の可否ではなく特定の政党や特定の候補者を支持する言動を、どの首長も行えるかというとそう簡単ではありません。人気と票の行方や自治体運営、議会対策があるからです。
 出来るのは、極めて高い人気があってそれをバックにする場合、または議会に反対勢力がなく、議会対策に気を使わなくて済む場合です。2人ともそれが当てはまると思います。
政治家としての信念なのか、世論と議会を秤にかけながらの票の取引であるのか、いろいろな思惑、要素があります。公務員としての仕事ぶりと政治家としての行動全体が有権者の選択の対象となるなら、この辺の見極めをしていく必要があります。
 さて日高市はどうなんだろうか、と思っていたら、新聞に関連するような記事が二つありました。
9区から衆議院選挙に立候補する自民党大塚拓氏の日高市後援会開催の記事です(文化新聞6月12日)
 『日高市で選対役員会 大塚拓氏をバックアップ 大沢市長、小谷野県議ら後援会組織が結集』
 この後援会開催で大沢市長は「皆さんが代議士を引き回し、住民一人一人にまで浸透させていくことが大切になる。日高では大塚さんがナンバー1になるよう力をいただきたい」
 これに対し大塚拓氏は挨拶の中で「大野先生が責任をもって築いてきた地域をしっかりと守っていかねばならない。その責任を改めて噛みしめている。12月には日高市長の選挙もある。ここで保守の一角を崩してはならない」
 無所属として立候補し小谷野氏と争って当選した大沢市長が、自民党大塚拓氏後援会に出席して支持を明言したことは、何を意味するのだろうか。政治家としての信念の発露か、後援会の意向によるものか、票の取引なのか、いずれにしても、“政治家”としての大沢市長の新しい行動であることは間違いない。
 政治家としての大沢市長は、このように自民党支持という明確な態度をとったわけですが、“特別公務員”としてはどうなのでしょうか。市長に厳しく迫る議員は一人もいない無風の中で、現状は、議会対策に気を使う必要はまったくないという“理想的”(市長にとって)現状です。
 日高市議会で市政の成果と課題および2期目への展望などについて『大沢市長 課題取り組みに意欲見せるも 2期目出馬明言せず』(文化新聞6月19日)
質問で今後を問われ、普段はほとんど議会答弁に発言しない大沢市長にしては、饒舌なほどの発言でした。