滋賀研修、第3日目 

午前中の講義。
自治体における公共施設の老朽化の現状把握と更新手続きについて」
 秦野市政策部 公共施設再配置推進課 志村高史氏
今まで何回か公共施設の老朽化・長寿命化や再配置についての講演を聴いたことがありますが、今日の志村氏の話は理路整然としとても分かり易いものでした。現状の把握の上に分析を行いその対策案をつくる数年間の流れが、市民への説明のやり方と所内の意思統一をどう行ったかを交えて話されました。
 とにかく、頭の中で、なるほど、そうか・そうだったのか、その通りだな、という頷きの連続で、ある分野の問題を不特定多数の人に説明する場合の、いわゆるプレゼンテーションの完全な形が作られている、という感じでした。現状把握と分析なら素晴らしいプレゼンはいくらでもありますが、志村氏の地方公務員という職務と責任・義務の裏づけがしっかりと感じられるからこその印象であったと思います。
 志村氏はいまや、地方自治関係者、この分野の学会、建設業界等に名前が知られた存在らしい。視察・講演の依頼は引きもきらずに押し寄せているとのこと。
 失礼ながら、志村氏は秦野市の役所に戻れば“一介の”主幹、課長補佐です。なぜ、ここまで、多くの人々から話を聞きたいというまでになったのか。そこに、人の要素、組織の要素など、地方自治のあらゆる課題が浮かび上がっています。それが本筋の問題と同時に、常に背景から聞こえてくる音のようなものとして感じられます。
 市長の積極姿勢が随所で語られました。それはそうでしょう。講師として外部に出て行って市の方針を説明することは、トップの後押しがなければできない相談です。可能な限り公共施設老朽化対策を秦野方式として全国の関係者に説明し手伝うという姿勢です。
 講義が始まってしばらくして、最近の新聞記事に触れました。自分の名前が出されて、役所の中の「もんだ」族という発想について書かれた朝日新聞の記事です。複合的な問題や新しい課題で動こうとすると、必ず役所の中で、それはこういうもんだ、という習慣的言動で阻止される、というような内容です。
 私も、面白い記事だなと思ってスクラップしておきました。その時は今日の講師だと気がつかなかったのですが、いま確認したら確かに志村氏の名前を引き合いに出して書かれていました。
 資料の目次は次の通り。

 ごあいさつと秦野市の紹介
 現在までの経過
 第1部 公共施設更新問題が起こります
 第2部 公共施設更新問題への対応は施設白書から
 第3部 更新問題を解決するため、方針と計画を作ろう
 特別付録 すべての人が危機感を持つために
 
 いろいろなところに気持ちが動かされたのですが、一番よく覚えているところ。第2部の「秦野市公共施設白書の作成」の中にあった一節です。
 「行政に都合の悪い情報も、利用者に都合の悪い情報も、包み隠さず全てをお見せしています」。この方針は2回刊行された白書の内容に完全に反映されているようです。講義の後に市のHPにアクセスして確認してみました。トップページに専用の窓ができており、そこに全情報が集約されています。関係資料や庁内も含め各種会議の議事録も全部収録されています。
 情報公開と説明はいろいろな制度によって規定されておりその通りやっているというのが、どこの役所でも建前でしょうが、ここまで言い切って公言して実施するのは容易でなかったと思います。しかし、講義の中で志村氏は言いました。この通り最初からやることが重要とのこと。出し惜しみをしながらやると必ずそのしっぺ返しが来ると。そして、その結果は……
 第3部の「方針や計画に対す市民等の反応」の中の一節。「タウンミーティングパブコメでも、賛成意見がほとんどを占める」。その理由として「客観性と透明性は最大の味方」「単刀直入に、はっきりと分かりやすく伝えましょう。議会答弁のような言い方は役所の中では通用しません」
 これが“一介の”主幹、課長補佐である志村氏が外部での講演用資料で書いたことなのです。すごいですね。最後のページで「うちの市長はこんな人です。お人柄やお考えがよく分かりますのでお読みください」と経済誌に掲載されたインタビュー記事がありました。
 
 午後からの講義。
「まちづくりのための具体策を考える」和歌山大学教授 足立基浩氏
 非常に若い先生ながら「教授」でした。ケンブリッジ大学卒業。講義のかなりの部分が、ゼミの学生が行った参加型まちづくりの実例としてのオープンカフェに関してです。資料は大部ですが、全78ページのうち学生の活動を説明する部分が43ページ。説明も資料もちょっと長すぎる。実例説明は具体的で面白いが、場所も条件も違えばその数だけの説明があります。
 後半からワークショップ。8つのテーマのテーブルを作り、各5人ずつ20分で順に場所を入れ替わりながら意見を出し合いながらまた元に戻ると言う趣向です。そして最後に発表。私は、土地の流動性(商業地、農地)と交通政策のテーブルに行きました。そして年長だからとのご指名で、土地の流動性の発表です。最後に講師の講評。
 講師の土地に関する講評は「もっと土地の公有制に目を向けるべき」とのこと。しかし、である。公有制に関しては、法政大学の五十嵐教授をはじめ学者の一部にはありますが、まず現実を知るべき議員に言う言葉かなと少し疑問でした。
 開発行政の基調が続く日本の土地行政に公有の観点は必要だと思います。私もいろいろ自己流に勉強してみて、その考えに至り五十嵐教授の講演も聞いたことがあります。地方議員としては土地を規制する法制度への理解が何よりも必須だと思います。