50パーセント節電企業

 国会前の“デモ”からの帰途、地下鉄の国会議事堂前駅が閉鎖されていたので、溜池交差点を通って赤坂見附へ向かいました。溜池の交差点で、このビルだけがこの界隈で40年前と変わっていないなぁ、と角のコマツビルを見て思いました。大学生の時には確かあったはず。この近くに勤務していたときには、隣のビルの喫茶店でよく昼休みを過ごしていた。昔は屋上に黄色いブルドーザーが鎮座してたが、今はなくオブジェ風のものがあります。

 さて今ここで書こうとするのは昔話ではない。先月のことです。
 コマツビルの前を通った時に、先月のいつだったか、NHKのクローズアップ現代で見た節電特集を思い出しました。あの特集では、「節電」と「コマツ」と「技術」、この3つの言葉が強力な接着剤でくっついたような感じで鮮明に記憶に残りました。
 あまりに印象が深かったものだから後でしっかりフォローしようと思ったくらいです。
 番組の中で、社長だったか担当の技術者だったかはっきりは覚えていないのだが、「我が社は○年度に節電50パーセントを実現させる」と明言していたのである。
 これには驚きました。節電に対しても電力の必要性に関しても、いつもゴチャゴチャと何でも反対の煮え切らない言葉を発している経団連の会長とは大違いだと。
また電力の不足で操業率が落ち短期的利益に影響し社長の椅子が危うくなることばかりを心配している一部上場企業の有名企業の有名社長の発言を聞いて、この程度の見通ししか持てないのかと。節電や原発への方針や態度は、困難に立ち向かうリーダーの試金石でもあることを強く感じました。
 コマツは、生産プロセスのあらゆる段階で、部品の一つ一つ、工程の一つ一つでエネルギー効率を見直し、また太陽光や地熱の自然エネルギーの使用や工場の各所で発生する排熱を利用したりと、全体の総計で50パーセント節電の実現を目指すという。
テレビで明言できるのは、達成できる自信があるからであろう。
 今までの生産条件を否定される環境を逆に革新のバネに利用し、時代と企業のミッションを同化させるのは簡単にはできないことであろう。古くはホンダが絶対に困難と言われたアメリカの大気汚染防止法をクリアするエンジンを開発して飛躍したことは、もう私は何度書いたか分からない。
 技術が革新を起こし利益を創造することは企業の理想の姿であり、結果として、その技術が社会の持続的発展を支えることになればいい。そういう推進力を作り出す技術者の努力に私はいつも敬意を払っています。
 コマツと言えば建設機械の世界的メーカーである。何かで読んだ記憶がある。この会社が作った建設機械は世界各国、ジャングルであろうとどこであろうとあらゆる所で使われています。うろ覚えですが、その全部の機械の稼働状況がGPSで把握されており、機械の調子や時間や燃費まで把握されているという。今の技術はそこまでできるんだと感心したことがあります。
 ところで、私自身もコマツに関しては思い出があります。
 一つは、三十数年前、まだ20代の時、公害関係のことで何度か取材に行ったことがありました。当時は、公害関係の法律が整い始めた時代で、産業関係も資材の無公害化が求められていました。
 特に大気汚染防止と重金属公害の防止は先進国の世界的課題で待ったなしの状況でした。鉛や水銀などの重金属はいろいろな産業資材に使われており、ブルトーザーなどの黄色塗料は黄鉛と言って鉛を主成分としており代替が求められていました。
 黄鉛は耐候性が強く建設機械の塗料としてはこれ以外に無いというくらいの性能がいい塗料でした。しかし当時は、黄色と赤色の重金属塗料を他の有機化合物等で代替することは難しい課題でした。この関係のことで話を聞きに行ったことがありました。しかし、程なくして化学業界で代替品が開発され現在の全ての無公害化につながりました。
 専門を公害、環境という社会的ミッションに重ね合わせての、技術者のたくさんの仕事の成果が私たちの生活を作っています。そういうことを思うと、技術者に敬意を払いたい。

 もう一つは、サクラです。サクラとコマツは関係なさそうですが、コマツCSR(環境・社会活動)ホームページのトップに紹介されています。「日本花の会」として活動している公益財団法人で、1962年、当時のコマツ社長の河合良成氏によって創設されました。
 自社農場でサクラの苗木を生産し、全国の希望者に配布してサクラの名所づくりや公共の景観づくりに貢献してきました。私も娘が5歳の時、できたばかりの武蔵台小学校の殺風景を何とかしようと、桜の会に応募し30本くらいの苗木の提供を受けました。いま8本がグラウンドに残っています。
 また最近では、環境ボランティアの集まりであるソクラテスの会の記念行事として応募し、70本くらいの苗木の提供を受け、巾着田のログハウストイレ隣の駐車場周辺に植えました。
 コマツとのこういう過去の“接触”があるため、今回の節電への取り組みも私としては応援したい。何よりも原発事故が起こって露呈した社会的・経済的欠陥を維持・擁護することではなく、企業としてのフィールドから革新に立ち向かう姿が頼もしいと感じられる。
 原発再稼働抗議で国会前に出向いた帰りに通りかかった溜池のコマツビル。見上げながら昔のこと、今のことを思い出しました。