太平洋セメント社長の発言と日高市

 という表題にすると、太平洋セメントの社長が日高市のことについて何か発言したかに聞こえますが、そうではありません。4月に就任した新社長の発言が出ていたので、日高市のことを連想したまでです。
 太平洋セメントの社長は4月に交代しました。新社長は福田修二氏です。「ダイヤモンド・オンライン」にインタビュー記事が出ていました。
 主な内容は次の通り。
 「3工場閉鎖や人員削減で、2012年3月期の純利益は3期ぶりに黒字転換」
 「未だに有利子負債は5100億円、DEレシオは2.6倍もある」。(DEレシオ:負債資本倍率。大企業の財務安定性指標。有利子負債と株主資本の比率をいい、その倍率が1倍以下が望ましいとされる)
 「コスト削減とともに、セメント製品の値上げを値上げをし、適正価格での取引を行う」
 「海外事業はゼロからの新工場ではなく強みである生産技術や品質管理ノウハウをアジアで現地メーカーに提供していく。この方法で中国第3位のセメントメーカーと合弁事業を始めた。廃棄物をセメント生産ラインでリサイクルする生産技術は中国でも注目を集めている。これを展開していく」
 廃棄物をセメント生産ラインでリサイクルする生産技術――海外事業の主力にしたいというこの生産技術の一つが、日高市の埼玉工場で操業されている都市ごみセメント資源化システムです。この技術は世界で唯一、実生産ラインで操業している埼玉工場で磨きがかけられ、太平洋セメントの戦略技術として海外展開されるわけです。
 セメント生産の技術資料を読むと、製造工程で使われる原料と燃料には、ありとあらゆるリサイクル原料、産業廃棄物が使われていることが分かります。これによって、天然原料の代替が可能であり、現在、セメント1トン当り400キログラム、エコセメントで500キロのごみ・廃棄物が原料として使われています。日本全体では、セメント原料として2006年時点で約3000万トン。現在のセメント生産量は約4300万トンと新社長も言っているので、相当な量が使われていることが分かります。
 現状でも数百種類の廃棄物が使われており、使えないものはないというほど、技術のコントロールであらゆるごみ・廃棄物が原燃料として可能であると、技術者は断言しています。
 ダイオキシンであろうがアスベストであろうが重金属であろうが、廃棄物や土壌に公害物質が含まれていても、無害化してセメントという製品に転化できるらしい。
 その技術の核は何か。セメント生産の技術資料は、素人がこう言っては不遜に聞こえるかもしれませんが、生産プロセスや品質管理に関することで、概論的には比較的分かり易い。生半可な理解かもしれませんが、1450度という温度と組成の分析技術、それと配合の技術と、これら3つが中心だなと思いました。
 ごみと廃棄物の研究が一番進んでいるのがセメント会社だと聞いていましたが、技術を知れば納得です。ごみや廃棄物が、生産プロセスを通して有価物に変わって役立つことは素晴らしいことです。そのことが、新社長が抱負とする会社価値の上昇に反映すべきだと私も思います。
 しかし素人的に考えると、そこにジレンマがある。
 都市ごみの有価物への転化99パーセントは、技術の成果としての“リサイクル率”としては称賛すべきものかもしれないが、現代文明の宿痾としての問題を、1450度の熱に溶かしてしまっていいのかという気がします。
 それを考え実行していくところに、生活の中から発想するごみ問題があると思います。中国人民・政府は、そこをどう考えるだろうか。彼らの旺盛な消費と興隆する産業からすれば、ごみの中身と資源の問題を問うことなく、炉に入れれば有価物に変わる技術は、拍手喝采を得るかもしれない。
 平成22年5月、日高市太平洋セメントと、平成24年度から33年度に至る「可燃ごみ処理に関する協定」を結びました。
 処理単価は
 (1) 平成22年度までは、トン当たり4万950円(税込)……平成14年以降
 (2) 単価の見直しは3年ごと。太平洋セメントの当初投資が回収された平成23年度から25年度は見直し単価に。
 (3) 見直した結果、23、24年度は4万950円(税込)と変わらず。これは太平洋セメントが導入した3千数百万円のごみ量計測器を、2年間の1000円値下げに相当するとされたため。
 (4) 平成25年度から1000円下げて、トン当たり3万8000円(税込3万9900円)
 埼玉工場のセメント生産のトン当たり原単位に占める都市ごみの率は0.1パーセント(うろ覚え)と極めて少ないことは、技術資料で読んだ記憶がありますが、トン当たりコストと処理単価は企業秘密の部分かもしれない。
 生産設備は償却される一方、維持と改善にお金がかかる。合理的な処理単価であるべきですが、同時に重視しなければならないのは環境面の対策です。
 どんな廃棄物でも分析と生産技術で対応できるとしていますが、それだけに排ガス等の環境への排出防止には万全の対策を行うべきです。ともすると、処理単価の面だけに目が行きがちですが、この面からの点検・検討も市民生活の原点として重要です。
 太平洋セメント埼玉工場パンフレットより。