平成20年度「みどりの埼玉づくり県民提案事業」応募

 以下は、平成20年度に応募した提案書の内容です。

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様式1
県民施策提案公募事業企画書

【事業名】 女影里山整備・保全事業
【事業の目的】

1 首都圏50キロ圏に残る知られざる貴重な里山保全のために
日高市女影地区の田園は、首都圏50キロ圏に残された貴重な里山です。この地区をはじめ日高市のJR八高線の西側は、奥武蔵山地の突端の台地が、人の手のように帯状に広がっている地域 で、特徴的な景観を持っています。指の部分に相当するなだらかな台地、指の間に相当するとこ ろには小河川が流れ、田んぼがあります。台地には雑木林と畑が混在しており、小河川沿いは田 と湿地で、また雑木林の中には台地から湧き出る水を貯める溜池が散在します。この地形的特徴 が南北に交互に幾筋も重なっています。そのうちの一筋が女影地区の里山です(添付の地図をご参照ください)。

○このような地形による景観と特徴が、他の里山と言われる地域とは異なる大きな特徴があります。 それは台地と川が程よく混在しているため、動植物相が水生と陸生に亘り極めて豊富だというこ とです。女影地区には、下小畔川という川が流れています。この川は地区の途中まで河川改修が 行われていますが、中心地区は昔の自然河川のままの状態です。この地区の田は、入水路が完備 した基盤造成が行われておらず、下小畔川の水と湧水を頼りにしております。これは、今日では、 田の耕作条件を極めて悪くするもので、上流の一部を除いて女影地区の大半の田が耕作放棄地となっています。しかし、これは一面では動植物の多様性に役立っています。

○以上のように、丘と川と溜池、畑と田と湿地と湧水、それらを結ぶ緩やかな起伏の里道と点在する集落の景観と環境、これらがまとまった広さで残っているのは、首都圏では恐らくこの女影地区だけではないでしょうか。 農村活性化と景観・環境保全の先進的事例として有名な、横浜市の「寺家ふるさと村」もスポット的です。また埼玉県が力を入れているみどり保全事業の指定地域である、三芳町から川越市にかけての「くぬぎ林」は、畑地域で水の環境はなく、他方、「見沼地区」は逆に田んぼ地帯で水環境のみです(埼玉県の施策参照ください)。女影地区は、前述したように、水生、陸生両方の特徴と景観を備える貴重な里山地域です。埼玉県の田園の美しさと日本の伝統的景観の維持のために、女影地区の里山を埼玉県のみどり保全の一覧に加えることを切望いたします。

2 多くの人に素晴らしい田園の静けさと陽光を味わっていただくために
○女影地区は、鉄道、主要道路と離れていて交通の便がよくないために、最近まで人車の往来が少なく、エアポケットのようなところでした。そのため訪れる人が少なく、素晴らしい景観は余り知られていませんでした。もちろん市内近隣の愛好者は多く、この自然環境を日高市の貴重な財産とする声も多くあります。最近では、福祉施設ができたり、埼玉県と日高市の市街化調整区域の規制緩和策で里山の中にミニ開発の住宅地が建設されたりして訪れる人も多くなってきました。この地帯に“意図して”あるいは“意図せざる”状態で迷い込んできた新規来訪者は、あまりの素晴らしい田園風景に例外なく感嘆の声をあげます。 「こんなところにこんな素晴らしいところがあるなんて」と。

○素晴らしさの源泉は、その特異な景観にあると思われます。撮影地点を示した各写真をご覧ください。帯状の台地は集落と屋敷林およびそれに続く雑木林から成っています。雑木林が成すスカイラインはそれを乱す人工構築物がないために、この辺の地区としてはめずらしく美しいラインを保っています。特に福祉施設「ぶどうの樹」からの景観はその特徴がよく出ています。広い空と連なるみどりの重なりの、南東に開けた田園景観は、見る人にほっとする安らぎと自然への親近感を与えてくれます。この感覚を多くの人々と共有し、里山という身近な自然の意義と人間の生活を考えるよすがとしたいものです。周辺の大規模団地住民の散歩コースとして多くの市民に愛され、市の観光地図にも「武蔵野の田園風景が残る」として散策コースにもあげられていますが、さらに、人間と自然の交歓を可能にする持続可能な地域としての位置付けと整備を行い、老若男女、子供も大人もすべての人々が心を開放できる自然空間としたいと考えています。

3 里山の自然を保全するための新たな市民活動の立ち上げのために
○このように、外形景観的、環境的には豊かな自然と美しい里山ですが、里山というにふさわしい人々の手が入っているかというと、そうではありません。この地区もやはり、先に記したように、雑木林は放置され荒れており、田や畑、特に田は耕作放棄で湿地自然林になりつつあるところもあります。

・地権者は、人手不足と高齢化で手が回らないが、自宅近辺の田や水の条件のいい田は耕作し、屋敷林や雑木林の手入れを熱心に行っている人もいます。
・市民は、そこにある景観や自然を楽しむ観客としての立場です。古くからある周辺団地住民は、この景観と環境を作り維持してきた土地の人には敬愛の感情を持っています。
・平成14年より3年間、埼玉県と日高市が行った市街化調整区域の規制緩和によって里山の中に出来た住宅開発地の新住民は、まだ我関せずの傍観者ではありますが、大半が環境を気に入っての移住であると見られます。その数は女影地区で約90戸にのぼる予定です。今後は、これら都市型住民との融和と一体化によって田園の景観と環境の維持を図っていく必要があります。
そういう中で
NPO法人福祉施設は、障害者自立の一助にすべく、畑を借りて野菜を作り、田を果樹園として再生させ、生産機能の復元を行っております。その広さ約40アール。
・市民の1人(筆者)は、田の耕作を行い、埼玉・東京よりインターネットで集まる若者と、また子育てグループの母親・子供たちと無農薬の米作りを通じて、農作業の実体験と環境維持の啓発活動を行っています(添付資料参照)。
・行政は、米の生産調整による関与や不法投棄の監視など通常の行政的関与であるが、環境課が行う自然観察会のルートに女影の田んぼ観察が入っており、産業振興課は、観光推進の見地から散策ルートに推しています。

○このようにそれぞれの事情や理由による行動ですが、この地域の里山を整備・保全し、人と自然の関わりを考え直すという一体的活動と価値観の醸成にまで至っていません。しかし、女影地区の里山の素晴らしさは誰もが認めることであり、いろいろな人々が手を携えることで、里山保全活動の新しい形態を作ることが可能です。すでに田の耕作に関わる年間行事(田植え、草取り、稲刈り、脱穀、もちつき等)での各ボランティア団体の参加や、NPO福祉法人でのボランティア活動等での協力や提携などが行われており、今後さらに広く呼びかけることによって多くの市民が参加するでしょう。

【事業内容】
1 河川沿いの整備
下小畔川は自然河川で昔の面影を残す状態ですが、過度に自然状態のままです。景観の主要な要素としての川を位置付けるために川沿いを整備し、川筋がわかるようにします。また水質維持に努めるため、新住民への啓豪活動や源流地に近い工場、資材置き場に理解を求めます。
・事業主体:地区自治会や地権者およびボランティアなどが共同で。ボランティアはすでにこの地域で活動している団体他、市内環境関係をはじめ諸団体に働き掛ける。
・実施場所:下小畔川水門より上流の自然河川部分
・実施方法:年間実施期日を決め行う。専用の草刈り機ほか道具があれば望ましい。

2 雑木林の整備
 すでに一部の雑木林は地権者が整備して相当きれいになっている所があります(地図上に記載)。この部分を拡大すべく、それに連なる雑木林の整備を行います。将来的には、台地上の雑木林が整備・保全されることが望ましいと思います。
・事業主体:地区自治会や地権者およびボランティアなどが共同で。ボランティアはすでにこの地域で活動している団体他、市内環境関係をはじめ諸団体に働き掛ける。
・実施場所:仙人女ヶ池周辺から下小畔川右岸台地上の雑木林
・実施方法:年間実施期日を決め行う。専用の草刈り機ほか道具があれば望ましい。

3 下小畔川沿いの田の復活と整備
 上流地域の田は比較的耕作されていますが、「萩通り」 以降は放棄田が多く、この草刈り整備、畦整備、可能な所は田の復活を行い、福祉施設「ぶどうの樹」までの、散策コースに囲まれた田んぼを見通せるように整備を行います。この田の地域は自然のビオトープとなり、水生動植物の観察に極めて適しています。この中の畔を整備しまたは場所によっては木道を築いて歩けるようにすれば、雑木林から田んぼの真ん中を通る散策が可能となり、この地域の里山の特徴を味わうことができます。
・事業主体:地権者およびボランティアなどが共同で。ボランティアはすでにこの地域で活動している団体他、市内環境関係をはじめ諸団体に働き掛ける。
・実施場所:下小畔川沿いの耕作放棄の田
・実施方法:田の復活や畔の復活など程度とレベルに応じて年間計画に。田であれば栽培暦に従ったイベント化が可能であり、すでに実施されている。

4 里山の特徴を念頭に置いた自然観察案内
散策道路(主として市が推奨する散策路だが、それ以外にもある)沿いに、この地域の自然の野山にある植物を植栽し、雑草も含めて博物的な案内板を間伐材などで目立たない工夫で設置する。この地域は、市の自然観察ルートにもなっており、観察と解説のポイントは多数あります。またそれを引率する自然観察員には、解説対象の知識とノウハウが蓄積されており、即実行できることだと思います。それによって、他の地域が単一の花や植栽を誇ることが多いなかで、自然の野山の理解を進める特徴ある自然観察の仕組みができると思います。
・事業主体:市環境課および自然観察ボランティア。
・実施場所:全域
・実施方法:掲示の方法と仕組みを、市民の声を取り入れながらつくる。

5 自然教育の中心地に
この地域を取り囲むように、周辺には、短期大学、幼稚園、小学校、中学校が散在します。この
地域の整備が進むことで、児童・学生の里山の自然と人間生活の理解に大いに貢献します。写真に掲げたように、母子がこの里山の広い空に下で田植えをする光景は本当に素晴らしいものです。また福祉施設が上下流にあり(上流の飯能市分には公的福祉施設があります)、園芸福祉の観点からも里山の自然は、極めて好適なロケーションといえます。さらに、整備が進むことで、近隣をはじめ都内からも自然観察の遠足地として売り出すことも可能と思われます。市民の老若男女すべての人が歩いてホッとできる里山空間の構築によって、今現在、未利用となっている貴重な自然資産が活きることになり、埼玉県、日高市にとっても首都圏田園都市の在り方を推進することができます。
・事業主体:学校関係の意見を取り入れながら構想は関係者全体で
・実施場所:全域
・実施方法:ワークショップからポイント実施

 その他、個別地域の工夫も各種ありますが、以上の事業を通じて、この地域の里山保全・維持する基本軸がご理解いただけると思います。

【事業内容】
 すでに述べてきたことによって明らかにしました。

1 他地域と異なる特徴がある里山の整備・保全を行うことで、身近な自然に触れる機会が増え、人間と自然の関係や地球環境への理解を進めます。

2 田園は、お年寄りから子供まで、すべての人々がみな喜び感動する空間です。女影地区の里山を整備、維持することは、それにふさわしい場所を作ることであり、福祉にも貢献します。

3 里山の整備・保全にいろいろな市民が協力・提携することで、市民社会の新しいモデルができるのではないか、それを可能とする萌芽が女影地区の里山にあると思います。

4 埼玉県の首都圏の田園の美しさに磨きを掛け、多くの人に触れていただく機会を増やします。また地域資源を活用する機会を増やします。

【事業経費】
 現状では、算出が困難なので記載できません。

【その他】
○この地域の里山の素晴らしさは、言葉では言い尽くせません。ぜひ、現地調査をお願いする次第です。これからの時代にふさわしいみどり保全環境保全里山との関わり方などを追及して行きたいと思いますが、それが可能となる地域です。

○以上記したことは、私が7年間、この女影地区で田んぼの耕作を経験した実体験と見聞、観察に基づいています。もとより個人的見解であるので、今後、この企画が可能となれば、関係者と話し合い、県のアドバイスを頂いて、できるだけ多くの人が参加するプログラムに育てていきたいと考えます。

○協力団体
ソクラテスの会(20年の歴史がある環境・生涯学習団体)
・みどりの会(日高市の環境関係12団体の集まり)

○資料
女影地図.pdf 直
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 この他に現地の写真10枚くらい。
(協力団体は当時のアイディアの段階のものです)
○PDF板(同じ内容)12.5女影里山整備保全事業.pdf 直