女影の耕作放棄地再生利用緊急事業の実態

 このように女影の耕作放棄農地際汗事業は始まりました。埼玉県に配分された予算は4億円。206億円が46都道府県に分けられた結果です。
 ところで、「耕作放棄」という言葉は、どうも馴染めません。放棄という言葉に、何か批判的ニュアンスを感じてしまう。財産としての農地を管理するのは所有者の責任であるのは当然なのですが、現状は、日本の経済的趨勢の結果としての国民的課題であり、環境や景観をつくる公共財としてもっと広範な視野が必要だと思います。
 そういう視点を加えた再生事業であれば大いに結構だが、耕作放棄地だ、再生しよう、再生だからどうしようといいんだ、経済性優先、地域性や環境後回しという考えが忍び込んでしまう所に問題がある。
 「放棄地」ではない、いろいろな意味で「余裕地」とみれば視界は全く違ってくる。環境や景観、さらに住民の生活の見えない心理的アメニティという点からすれば、「余裕地」は地域の財産といえます。生産農地ではなくても、最低限の管理さえしておけば国家的には優良な含み資産、予備軍的資産として活用できます。
 さて、それはともかく、埼玉県配分予算4億円。予算執行停止にならないうちに急きょ実行してしまおうという中での事業であったことは確かなようです。日高市の農政を担当する産業振興課課長は、県の農政部局からの派遣人事で、任期は翌年3月まで。また予算は口を開けて待っている状況です。
 そういう中で、事業の十分な説明が無くハンコを急がされたというのが大方の印象です。しかも、間に入る農地取りまとめ役が県の外郭団体の農林公社で“信用した”というのも事実。説明の場で、あのような湿田でトウモロコシが出来るのかとの質問には、可能であるとの明言。私もそのころ師匠に聞いたことがある。南からの水を止めるのに素掘りの水路じゃ無理だな、というのが答だった。
 地権者の要望と賛成のもとで整地工事が行われ、約7ヘクタールの畦を取り払った広大な“水田”が出現しました。工事が終わって県農林公社が地権者を取りまとめ、一括して牧場に貸して一連の事業は終了となります。一括して借りた担い手事業者(牧場)には、10アール当たり5万円の交付金が2年間支払われます。
 そこからは借りた会社の事業となり、当然のことながら企業としての土地借用に当たっての約束遵守と法令順守の問題となります。汚水事件はこのところに関係することですが、仕組みをさかのぼれば別の見えてくることがあります。
 この事業で特徴的なのは非常に複雑な執行の仕組みだということ。なぜこんな複雑なのか私の理解が行き届いていませんが、予算、正確には基金という工事予算と事務用の予算が分かれており、それぞれの流れが異なっており、そういう手続きに関してのたくさんの決め事があります。この辺に入っていくと私も分かりません。図に示すような組織と流れになっています。

 これだけ複雑な組織で、しかも県は主体ではなく指導・監督の一部に関係し予算の流れにもタッチしていない(額面どおり受け取っていいのか分かりませんが)ということであれば、権限と責任の所在はどうなのか、曖昧になるのではないかという疑問が湧きます。
 女影の事業は、事業主体として埼玉県耕作放棄地対策協議会と埼玉県農林公社が担当し、日高市耕作放棄地対策協議会が協力するという形のようです。国の予算は、県を通さずに対策協議会に直接入り順次下に下りてくる仕組みで、議会を通さない予算ということでの問題性が言われているようです。
 とにかく我々には複雑怪奇としか言いようの無い仕組みで、これは、農水省、県農政関係部局、農林公社、市町村農政担当、農業委員会、農業会議、JA、等々、農水省を頂点とする既存の農業体制の網の目をかませるような仕組みで、農業予算を仕切る原則が隠されているのかもしれません。
 農政の仕組みは本当に分かりにくい。農地法、農振法を頂点とする農業法制とそれに基づく実態を理解するのは大変なことです。であるからこそ、日高市の産業振興課長は県からの人事で、その専門的知見に頼っているのだと思います。ちなみに、女影事業の日高市耕作放棄地対策協議会の会長には産業振興課長が就いています。
 女影地区整備事業の概要は以下の通り。
耕作放棄地:5.8ヘクタール
・実施:平成21年度
・再生事業費:716万円:再生事業、国3579千円、県1790千円
 排水路改修事業:1040千円
・筆数:43 
・地権者:28人
・事業主体:埼玉県耕作放棄地対策協議会
・生産活動:(有)加藤牧場、とうもろこし栽培
・牧場への交付金