自然エネルギー世界白書を読んで

 会員になっているNPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)から『自然エネルギー世界白書2011』という報告書の冊子が送られてきました。

 この本は、21世のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21:Renewables Energy Policy Network for the 21st Century)が世界の自然エネルギー研究者の協力で作成された『Renewables 2011 Global Status Report』を、環境エネルギー政策研究所が日本語に翻訳したものです。
REN21は、2004年にドイツのボンで開催された自然エネルギー国際会議を契機に発足したネットワークで、世界で最も強力な自然エネルギー推進機関です。政府、国際機関、NGOをはじめ業界団体や企業、市民などすべての関係者に開かれており、運営はこれら組織から参加した39人が担い、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏もその一人です。
 環境エネルギー政策研究所は、2004年の自然エネルギー国際会議に参加し、以降の毎年のフォローアップに積極的に貢献し事務局運営にも加わっていると言う。正にネットワークと言うにふさわしい仕組みの中心に位置し、日本の原子力依存にストップをかけ、自然エネルギー中心の社会をつくるための理論・技術・政策推進の一番先頭にいる。
 ざっと全ページを読んでみました。確認したいことが、頭の中にはっきりありました。
 環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は、TV出演や出版物などいろいろな場面で言っています。
 「自然エネルギー技術と市場はもう開発段階ではない。成長段階なのだ」と。そして、「インセンティブを与え、トリガーを引けば飛躍的に伸びる」と。
 「 」内は正確な引用ではありません。本を読んだりして私の頭に残っている残像としての飯田氏の主張でして、この通りの発言をしているわけではないのですが、言っていることのポイントは間違いないと思います。
 読んでみて、本当にその通りだと納得しました。
 一般的な経済指標がみな対前年比落ちていますが、自然エネルギー分野のどの指標も大変な伸び率を示しているのです。報告書もこの趨勢は今後変わらないとしています。



 飯田氏の言う通り、世界はやはり自然エネルギーへばく進しています。いくつかの指標を引用してみます。
 自然エネルギーの主要指標を見ると、投資や発電容量及び各分野の生産量はすべて伸びていることが分かります。そういう傾向の中で、日本は太陽光発電の新設で4位、同じく既存容量で3位となっていますが、他の分野では上位5位に入っていません。
 最終エネルギー消費では、原子力は2.8パーセント、16パーセントが自然エネルギー自然エネルギーのうち10パーセントが従来の有機物の燃焼です。風力・太陽・バイオマス・地熱等私たちのイメージする新しい自然エネルギーはまだ0.7パーセントですが、個別分野の統計を見ると、そういう分野が技術革新で飛躍的に伸びていることが分かります。
 最も急速に伸びている太陽光発電は、上位10か国でドイツが圧倒的に多く44パーセント、日本は9パーセントです。日本に関係する産業統計では、風力タービンの製造では、上位10社に日本は1社も入っておらず、太陽電池製造では、京セラとシャープがそれぞれシェア3パーセントで上位15社に入っています。
 ドイツが原子力と決別した背景には、やはり太陽光を中心とする新しい自然エネルギーへの投資を怠りなく進めてきた背景があり、他の自然エネルギーへの投資も急速に伸ばしていることが分かります。
 この報告書を見ると、原子力ではなく自然エネルギーを目指すことが必然であることが分かります。そして、その意思を政策に反映させさえすれば、消費も生産も技術も自然に大きな流れになることが実証されています。
国民の意思は70〜80パーセントが原子力と決別していいと言っているのに、政治的決断はその方向ではありません。流れができているのに決断ができない、そうなれば人間と組織の問題ですから、いつもの光景が現れます。
 ドイツの原子力決別のしばらく後に、ドイツの世界的重電機メーカーのシーメンスが、原子力から撤退するという小さな記事がありびっくりしました。フランスのアレバと提携し原子力産業に世界的足がかりを持っていた企業の決断が印象に残りました。
 日本の三菱重工は風力タービンを作っていますが、世界上位10社にも入っていない。同社はフランスのアレバと提携して、これからの原子力の新規需要をねらう戦略でしょうが、われわれ素人には分かりませんが、二股をかけてのエネルギー戦略はどうなんでしょうか。
 二股といえば、日立も東芝も同じです。こういう世界的大メーカーは人材豊富で間違いない意思決定をするかと言えばそうでもない。提携の本を出版するので事例を調べたことがありますが失敗も多い。
 原発建設の増加という海外原子力ビジネスに向かう重電3社のリスクに加担するよりも、内外の撤退と選択の政策意思をはっきりさせて道筋を作った方が、どれだけ国民の幸せと利益に沿うことになるか。
 広島、長崎にさらに重なった福島原発事故という過酷な原子力体験。
 世界の自然エネルギーへの趨勢は明らか。
 国民は原発との決別をよしとしている。
 この『自然エネルギー世界白書』は、日本の3つの選択理由にバックボーンを与えるもので、日本語版の発行の意義は大きい。会員のみならず、一般書籍として広く読まれるべきものと思います。飯田哲也氏にそのことを進言してみよう。多分、その方向であろうと思います。