朝日新聞社「日本の里100選」と日高市の女影

  朝日新聞社と森林文化協会は「にほんの里100選」を6日、朝日新聞紙上で発表しました。これは、「人々の暮らしによって育まれたすこやかで美しい里」を選ぶという目的で、平成20年(08)年1月から公募していたものです。応募の条件としては、次のような3つの特徴を持っている地域とされました。

100選、残念至極の思い

 1 景観 暮らしが生み出した特色ある景観が、まとまりをもって見られる。あるいは、里の景観が全体として調  和していて美しい。
 2 生物多様性 かつては里でよく見かけた動植物が今もすこやかに生きている。あるいは、そうした生き物や生  育・生息環境を再生する試みなどがある。
 3 人の営み 景観や生き物を支え、里のめぐみを生かす暮らしや営みがある。あるいは、そうした暮らしを築き  持続させようとする人々がいる。
 4474件の応募があり、候補地は2000以上になったそうです。その候補地の中から、前掲の「景観」「生物多様性」「人の営み」の特徴にかんして現地調査し、山田洋次映画監督を委員長とする選定委員会の論議を経て選ばれました。 テレビ朝日で11日今日から毎週日曜日午後6時56分〜7時に放送されます。
埼玉県では2か所選ばれました。各県もほとんど2か所となっています。この各県2点というのは、応募段階では出ていなかったと思います。
 実は、最初に募集の記事を見た時、「女影」で応募しようと即座に思いました。日高市の「女影の里山」も先ほどの3条件を十分満たしています。それに、私自身が女影で田んぼをやっていますので、景観の素晴らしさや生物多様性の豊富さはもちろん、里のめぐみを活かす生活があるのをよく知っていたからです。
 しかし、全国では相当の応募があるだろうからと思い断念しました。結果は、1つの県に2か所ずつ均等に配分です。2か所だったら可能性もあったかな、と残念至極の思いでした。

埼玉の里山の“代名詞”三富新田

 「三富新田」は、埼玉県の里山関係、環境関係の話には必ず引き合いに出されるほど、埼玉県の里山の代名詞的存在の場所です。あのダイオキシン騒動以後、地元は汚名挽回の努力を一生懸命行い、国、県も手厚い施策で応えてきました。現在、埼玉県企画財政部土地水政策課のホームページには、「三富新田とその周辺」というページが設けられています。

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 その中の「今までの経緯」には、平成11年4月に、「知事が三富地域のあり方について総合的な検討を指示」したのを皮切りに行った施策やイベントなどのことが書かれています。
推進事業として予算化、国への要望、「みどり豊かな三富地域づくり県民の集い」を開催、「第1回みどりの三富地域づくり懇話会」を開催、緑地所有者意識調査、県議会が内閣総理大臣ほか大蔵、農林水産、建設、環境、国土の各大臣に意見書を提出と、平成11年内だけで矢継ぎ早に続き、その間、地元農家有志一同(署名1,461名)による、「首都近郊武蔵野における農業、環境保全に関する陳情書」の知事への提出もありました。12年度以降も、これを受けて支援はどんどん深まっていきました。
 三富地区は江戸時代に遡る土地の区割りが残っており、現在でも、まとまった地域で中規模農家による野菜栽培が盛んです。道路、間口72mの屋敷、屋敷林、区割りされた農地とそれに続く雑木林の形がいくつも整然と続く広大な景色は景観的、歴史的にも素晴らしいものです。ただ一つ、川が全くない台地なので、生物の多様性は少ないというか、水生の環境は全くありません。私はこの近くで生まれて、この辺は少し遠出の行動範囲だったので、よく知っています。
 寄居町の風布は行ったことはありません。山間の地域なので、大体の景観は想像がつきますが、一度見に行こうと思います。

女影の素晴らしさにもっと関心を!

 さて、日高市の女影はどうでしょうか。私は、ここで田んぼをやって日々接しているので、この辺の里山の素晴らしさをいくら強調してもし過ぎることはないと思います。雑木林が続く大地の両側には、畑と田んぼがあり、その下に小畔川水系が細流を集めて流れています。その雑木林のスカイラインと畑と田んぼが入り組む谷津、その奥から湧き出る泉と小川。これほど広範囲に里山の条件が残っているのは、首都圏50キロ圏では女影だけです。
 日高市中央部にこれほどのすばらしい場所、地域にとっての貴重な財産ががあるのに、正当な評価がなされているとは思えません。それはなぜでしょうか。いろいろな理由があります。それに関しては、これから折に触れて書いていきます。



 
 こんなに素晴らしいのに、埼玉の里山の代表選手が三富新田というのが、私には悔しいことなのです。歴史性と農業生産という条件は少ないのですが、生物多様性と景観は断然優れています。この女影を埼玉の里山の代表に加えれば三富と相補うことになります。しかし市民の関心は大きいのに、保全維持への積極的な動きはありません。巾着田のまんじゅしゃげの産業効果だけでなく、地域の特性に合った政策と市民の生活福祉に合わせた目線が必要ではないかと思います。観光資源としてもきわめて大きいのです。
 田んぼにいると、ドライブ途中、時々国道から田園地帯に入り込んでくる人がいます。ある時、東京から来た人の言葉。「こんなにきれいですばらしい所があるなんて知らなかった。退職後の農業生活のために毛呂山に山林を買ったが、ちょっと早すぎた。ここを知っていれば……」
 「柴又の寅さん」の山田洋次監督は「幸福な勘違い」と、日本にまだたくさんの里山があることを評価しました。しかし、東京首都圏で選ばれたのは、町田市の一か所のみ。女影の価値があるのです。もっと関心を向けて、と声を大にしていいたい。