思いを新たに

今回も、日本葡萄愛好会の総会に佐藤忠吉氏が参加されていました。佐藤さんの姿を拝見することも総会にくる目的の一つ。100歳に近いので、最近の会合ではお付きの人が付いてくることもあったが、今回はお一人です。島根から飛行機と電車を乗り継いで来られます。
佐藤忠吉さん。95歳。大正9年(1920年)に木次町の農家の長男として生まれ、父の「農家の長男に学問はいらない」という方針で小学校卒。1937年に始まった日中戦争に約6年間従軍。戦後すぐ故郷木次で農業を始め、日本で初めての新しい試みを次々と成功させてきました。
山地酪農、無農薬農業、安全な乳製品、日本産ヤマブドウ系ブドウを原料とするワインの開発、有機・無農薬栽培の作物を原料とした安全な食品の製造と消費の循環を目指す地域社会の構築など、今で言う農業の地産地消と6次産業化を早くから、しかも有機・無農薬というハードルの高い手法で実行されてきました。次々と成功させたと言っても、どの事業も10年、20年単位の長期にわたる難事業で、持続力と高い志及び経営感覚がなければなし得なかった偉業です。
佐藤さんの人柄と事業については、いろいろな文章に、伝記に、映像にと余すところなく語られ、記録されています。しかし、年を経る毎に実践の知恵と思想の輝きが増し、次々と新しい文章や記録が創り出されています。佐藤さんの最近の様子については、事務機などのメーカーである株式会社オカムラがつくるウェッブインタビューマガジンに詳しい。http://www.okamura.co.jp/magazine/wave/archive/1412satouA.html
私が佐藤忠吉さんの存在を知ってから20年くらい経ちます。私が選んで入ったいくつかの農業団体に熱心な会員としていつもいらっしゃっていました。経験に裏打ちされた含蓄のある話しをお聞きするのは楽しみで、会合に出席する目的の一つともなっていました。10年くらい前に、出雲の農場や工場を訪れ、佐藤さんの説明を聞きながら複合的な地域産業として育っている姿を実感しました。
佐藤さんは、日本葡萄愛好会を創始した澤登晴雄初代理事長のことについてよく触れていました。数十年の時間を必要とする新しい品種を創り出す仕事と無農薬農業を目指す初代理事長の姿勢に深く賛同されていたと思います。
私が若いころ机を並べていたこともある作家の森まゆみさんも、ロングインタビューで佐藤さんの生き方を描いた作品があります。佐藤さんと作家の波長が奏でるハーモニーが心地よい読み物です。
会議終了後、再会を約して。また出雲に来なさい、という嬉しいお誘いの言葉。思いを新たにしました。

森まゆみさんの著書。

ホテルから望む南アルプスの冠雪した稜線。最近の調査で、山梨県が住んでみたい県の一位とか。盆地、山地の風光明媚や果物の豊富さ、新規就農受け入れに熱心……。思いついた推測の理由です。