藻谷 vs 竹中論戦を見て――1年前の記録

以下は、『里山資本主義』の著者、藻谷浩介氏が出演した、平成26年1月2日のテレビ番組「朝まで生テレビ」を見た時の感想です。ブログにアップするつもりで書いたものだが、機会を逃してしまって1年が過ぎてしまった。著書『里山資本主義』の共著者のNHK井上恭介氏の講演を聴いて、出番がきた。日の目を浴びることになってよかった。
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 12月31日の深夜、というより元日の早朝というべきか、寝ようと思ってテレビを消す前にチャンネルを回した。これがいけないことであることは分かっているが、夜中はいい番組をやっていて見てしまうことがある。
田原総一郎の「朝まで生テレビ」をやっていました。しばらく立って見ていたのですが、椅子に浅く腰掛け、次は座り直しストーブを引き寄せ、本格的に見る態勢に入ってしまいました。
 2人の国会議員の他、記憶にある出演者は、次の各氏。
言わずと知れた小泉内閣の経済財政担当大臣竹中平蔵男女共同参画経済評論家の勝間和代、ローソン社長の新浪剛史、年収300万円経済評論家の森永卓郎日本総合研究所主席研究員でまちづくり評論家の藻谷浩介。
 話題はもっぱらアベノミクスに対する評価だった。全員の主張していることをキチンとフォローした訳ではないが、藻谷氏以外は、賛成派であろうという私の先入観でした。
 個々の政策では違いはあるかもしれない。例えば日銀によるマネー投入、消費税、TPP等です。しかし萎縮している市場に対してカネをジャブジャブ投下し、モノ経済を刺激して成長を起こしパイを大きくすれば全てうまくいくとする考えにおいては、藻谷氏の他の人は賛成ではないかと思う。
 藻谷氏は今までの論からして、単純な金融緩和と公共事業では日本はよくならないという考えのはず。日本全国のすべての市町村に行ったというほど、地域の実態に詳しい。急速に変化する高齢化と生産年齢に関する人口実態と地域の現場から発想する主張は、個別政策の改革のミックスです。司会の田原総一郎は竹中教授に非常に近い。
 さぁ、そうすると議論はどう展開するか。どの出席者もマスコミ上でのケンカには慣れていたり、一流ビジネスの最前線で論を磨いている人達である。特に、竹中教授と藻谷氏がどう主張を展開するか、ここが私が椅子を座り直しストーブを引き寄せた理由です。
 結論を先に言えば、藻谷氏が劣勢。劣勢もいいところ、完敗に近い。私は1時間くらい見てこの流れを見届けて寝てしまった。
 やはりというか、当然というか、テレビでの論戦は恐い。主張の正当性もさることながら言葉の選定と繰り出し方で勝敗が決してしまう。竹中教授は、小泉内閣の閣僚として与野党両方の議員から叩かれ続けた。それを蹴散らしながら普通の学者にはないディベート力を発揮することになった。
 学者としての理屈立てと単純・明快説明力にさらにこのディベート力が加わったら、よほど同等の力がないと渡り合えない。論の正当性はあまり問題ではない。さらに司会が竹中支持の田原総一郎となったら尚更だ。案の上の展開となってしまったが、藻谷氏が論戦“劣勢”となってしまった理由はいくつかあると思う。
 竹中氏は個別の政策や個々の現象には関心を示さないというか、全体の経済システムとその中の変数という観点で発言する。竹中氏は“ああ言えばこう言う”の間髪を入れずに言い返せる。堅固に構築された陣地からの体系思考で少しも崩れないから強い。一方、個別のケースとか影響とか現場の空気から発言する藻谷氏の話しは、現場に詳しいという自分の領域で話そうとするから、話しが複雑で分かりにくい。
 私自身も、聞いていてイライラ。もっと簡潔に話せよ、と何度思ったことだろう。戦場の状況判断を間違えるな、と藻谷氏に言いたいところだ。時間と紙面がいくらでもある場とテレビの瞬間、軽薄短小の場では当然、表現と言葉も違うはずです。そんなことは分かっているはずなのだが、結果は何も伝わってこない。発言するたびに、隣の勝間女史から背中越しに何度も論点外しを指摘されてしどろもどろ。陣地構築がなっていない、本当は多くの人が知りたい論点を提起しているのに、打って出てもことごとく竹中氏と同調者に打ち砕かれる。
 藻谷氏は竹中氏や自民党政権の経済改革手法に反対なのだが、その背景に金融・財政的従来の方法による単なる成長を追い求めることではダメだ、という考えがある。反または非成長の哲学や思想を語ることはいいが、それで国家の現実に動いているシステムを説得的に語ることは難しいのではないか。カネを湯水の如く溢れさせ、流れるぞ、さあ使おうぜ買おうぜ、に対抗するのであれば、相手の言葉をがっちりと受け止めた上での、我々に分かる簡潔な言葉を開発すべきです。そこから豊富な地域の観察や実態が臭ってくればいい。本当は国民の一定部分もそういう気持ちなのかもしれないのに、それを代弁する現実的な理屈がない。テレビを見ながら、藻谷氏には頑張って欲しいという思いを強くしました。
 それにしても、竹中氏の一部を捉えて全体のシステムに転換させるレトリックを操る能力といい、どこを動かせばどうなる、という全体説明の鮮やかさはダントツです。年収300万評論家の森永氏の懸念など歯牙にも掛けない。
 司会の田原総一郎氏はしきりに藻谷氏を指名し、発言をさせようとしていました。これは藻谷氏の反成長論を引き出そうとしているな、出たら竹中氏に振って竹中ロジックで木っ端みじんにやっつけようとしているな、と見ながら感じました。今の状況からして、“それを言ったらお終いよ”と内心思いながら見ていたが、藻谷氏はかろうじてとどまった感じ。
 それにしても竹中教授とテレビでガチンコ勝負が出来る人はいないのか。理論構成とディベート力で自信満々同士がやりあう番組をみたいものです。何時間でもいい、両者へとへとになるまでの論戦は面白いのでは。