国連大学

 
 青山通りを渋谷方面に行くと青山学院大学正門の反対側に対称的に配置されているのが国連大学
 数ある国連の機関でも本部が日本にあるのは国連大学のみです。国連大学は1972(昭和47)年の総会で創設が認められ、土地も資金も提供するという日本政府の申し出によって1975(昭和50)年に開学しました。私が大学にいた頃はここは都営バスの車庫で、通りに面した所は確か都営住宅でした。
 本部のほかに世界の12カ国に研究所や事務所が置かれ、当初は研究と連携の組織でしたが、現在は大学院が設けられ、12人の学生が在籍しているという。
 ガラーンとした雰囲気の建物で、人の出入りはほとんどありません。しかし玄関には屈強なガードマンと受付には2人の女性がいます。高い吹き抜けの2階部分が図書館のようで、図書館までは一般の人が行けるようです。
 大学本棟の1階の玄関ロビーと両側の細長い事務棟の間は、裏側に続く石のコンコースになっていて、中から青山通りを見通せます。裏側は石畳の広場を囲んで事務棟があります。その一角の内部がみえましたが、あまりの散らかりようにビックリしました。普通の事務所でも、これだけの乱雑はみられないだろうな。
 暑い日差しに照らされた石畳の広場はただの空間で、何の機能も無いように見えます。本棟の建設配置を敷地の前面に出したので、後ろの敷地の余った部分の外側に沿ってコの字型に事務棟を配し、真ん中をそのまま広場にしたとうかがえます。
 本棟はごっつい城のような感じの威圧的建造物で、しかも全体的な建築空間に人間的なフレンドリーさが感じられない。道路の反対側に大学という同じ機能の場があるのに、そのシンメトリーを活かしたらいい、という素人なりの発想を抱くのだが、そういう考え方はなかったのだろうか。威風堂々だけが過度に強調されて、周囲の景観にマッチしてない感じです。
 と、国連大学の建築についての感想。これを設計したのは、何とかの有名な丹下健三です。丹下健三の設計の建物は都内にもいろいろあります。
 代々木のオリンピック公園の競技場をはじめ赤坂プリンスホテルや都庁。特に都庁などは典型的だと思うが権威というか威圧を感じさせるものが多い。この国連大学も、「平和と進歩」という世界価値を創り広める意味で一つの権威かもしれない。
 国連大学と言っても、ほとんどの人はどんな大学なのか知らないのではないかと思います。大学と行っても最近までは学生がいない世界課題の研究機関でした。
 国連大学の最も重要な役割は「世界の持続的可能な開発に貢献する」こと。国連大学はこの目的と使命のために、世界中の学者を結びつけコーディネートして、現実に貢献する連携成果を上げることを目的としている。そのテーマは26課題にわたっていて、5つの分野にくくられています。
 26テーマの基準は、開発地上国の抱える課題か、世界的規模で緊急度が高いか、他の課題との相互連関性があるか、解決指向のアプローチが可能か、現実的・反復的解決法や政策が可能か、などとなっている。
 1 平和、安全保障、人権
 2 人間および社会経済の開発とグッドガバナンス(正しい統治)
 3 グローバルヘルス、人口、持続可能な開発
 4 地球変動と持続可能な開発
 5 科学、技術、イノベーション、社会
 この26課題、5分野について、(1)研究と調査、(2)教育と能力育成、(3)知識の共有と移転という3つの実践目的をあてはめ、いろいろなプログラムが組まれている。
 こういう世界的規模での研究や調査が国連の政策を支えとなって各国の参加で進められている例としてよく知られてのが、4の分野である生物多様性です。1992年、リオデジャネイロでの地球サミットの成果として採択され日本もいち早く参加、実施計画である生物多様性国家戦略も95年に決定し熱心に取り組んできました。予算分担でも日本は最大の拠出国でずいぶん貢献しているので、誇っていい成果だと思います。
 生物多様性基本法を制定し、2010年には生物多様性国家戦略2010を決定しCOP10(コップテン:生物多様性条約第10回締約国会議)を名古屋市で開催しました。その成果が事務棟右側の一室で展示されていました。
 生物多様性についてはマスコミも、政府の熱心な取り組みや趣旨の重要性から多くの報道を行い、この展示にあるようにたくさんのポスターが掲示され、立派なパンフレットが政府各機関や団体で多量に発行されています。
 しかし、その割には一般には理解されていません。市民レベルの講演会を、生物多様性のテーマで行っても人がきません。これは私も経験しました。ポスターをしっかり張り出しても、豊富な資料を用意しても参加者は少ない。講演テーマとして最も不人気だと講師が言うのだから確かでしょう。
 いろいろな生物が絶滅し多くの種がその危機に直面しているのは人間の活動のためで、このままでは生物と人間の共存が危うい、地球が危ういと言われても、多くの人は、それが生活に何の影響も無いことから関心が湧かないし実感がない。
 国家政策としてのトキの保存は象徴的取組みでマスコミ報道で関心も高い(見世物としてか?)が、地域の田んぼからメダカやゲンゴロウがいなくなった、里山から日本固有の植物が姿を消したと言っても、そこから想像力を働かせることはむずかしい。私たちの子孫のいつの時になるか分からないが、気が付いた時にはどんな自然が残るのか。今でさえ日本の生物種の30パーセントが絶滅の危機にあるとされています。
 そういう認識を元に、地域レベルで地球市民として関心を持とう、環境維持を実践しようということを盛り込むのが、基礎自治体で策定され最も市民参加度が高く設計される「環境基本計画」です。いろいろな市の環境基本計画を読んだことがあるが、市民、自治体が国家、国連を通じて世界・地球課題にどれだけの意気込みで取り組もうとしているのか、一個人一地方自治体が地球とどうつながるのか、問題意識の差ははっきりと出ています。
 日高市の環境基本計画はどうか。一度でも目を通してみるといいです。
 かなり以前のことになるが、国連大学か国連広報センター(この建物の中にある)だったか、要職にあった人と懇意にしていました。国際公務員の内情を聞いたことがあります。今でも国際公務員の内幕を書いた本や記事が時々でますが、伺い知れない一面があるようです。
 
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