耕作放棄地対策――農業政策最前線その1

 私の耕作している田んぼから180度目を移していくと、都市政策や農業政策の極めて象徴的風景が3つあります。この3つがそろって以来、三題噺ができるなぁと思ってきました。

 昨年の田んぼで見ると、3つとは、左から(1)土地の規制緩和による造成地、(2)中央の森の中に大規模な産廃投棄後、(3)右の方が耕作放棄地、です。田んぼの作業をやりつつこの3つの現代的風景を眺めながら、この背景や意味を考えてきました。
 この3つのうち、耕作放棄地の復元・再生が始まりました。いま現在、田の中に柳の木が繁茂し荒地となっていたところがきれいさっぱり、県道まで見通せる耕地が出現しました。しかし耕地といっても田んぼではなく畑です。畦のあった田んぼを境のない広大な一面の畑にしたのです。昨年秋から重機が入り、いま仕上げの段階に入っています。
 昨年、測量が始まり、続いて工事が急ピッチで進み、あれよあれよという間に現在に至りました。測量が始まった頃、何の工事でどういう風になるのか、大体は理解してはいましたが、地権者ではありませんから、正確なことは分かりません。

 その後複数の地権者に聞いても、部分的、断片的なことしか分からず、うわさの域を脱しない情報ばかりでした。日高市がやるのだ、県が関係しているとか、牧草地になる、あんな湿地に牧草などできっこない、牛舎が作られる、もう半分くらいは売られてしまっている、やってみてどうなるか分からない等々。
 実際は、着々と日高市きっての大規模耕作地が完成しつつあります。約6ヘクタール。これだけの広大な一枚の畑は他にはありません。重機の威力は絶大です。素掘りであっても深い掘りを何本か通せば排水はよくなるようで、土地の乾燥化は問題ないようです。よほどの工事をしなければ畑にするのは無理だろうと、言われていましたが。
 一番下にある田んぼは何らかの影響は出るかもしれません。耕作放棄地に滞留していた水が川に落ちるようになって、水が豊富になるか、乾燥してくるか?
 そのうち調べてみようとは思っていましたが、ある人が口にした一言がきっかけで、ほぼ全体が分かりました。地域の農業事情と国の農業政策、地方分権と行政の方向など、非常に多くの問題が重層的に重なっており、女影の耕作放棄地の再生は、現代日本の政治と行政のあり方の示す実例、最前線であるということです。
 事業の名称は、農水省の「耕作放棄地再生緊急対策事業」。私の理解した範囲のことを1、2回に分けて書きます。