里山づくりシンポジウム

2月半ばに行われた飯能市の環境シンポジウムに行きました。主催は、飯能市、はんのう市民環境会議、飯能市林業振興対策協議会。
 行って見る気になったのは、「里山づくりシンポジウム―飯能のみどりを次世代に引き継ぐために―」というシンポジウムのタイトルに惹かれ、またパネラーに、以前講演に招いたNPO法人天覧山多峯主山の自然を守る会の浅野正敏氏の名前があったからです。
 受付けには市の職員が大勢配され、飯能市の肝いりであることがわかります。1階玄関の机の上には無料配布のパンフレット類が積まれ持っていけるようになっています。浅野氏のNPOの広報誌のバックナンバーがたくさんありました。2階講演会場の入り口受付けにやはり市の職員。既に会場は八分の入りで開会時には満席となりました。市長も出席し挨拶するので、関係者も大勢いるようです。
 講演は東京農工大学名誉教授で日本自然保護協会の専務理事の亀山章氏です。タイトルは「里山の過去・現在そして未来」。講演の前半は、里山と森林に大きく分けて、その解説をしたのち、「やま」と称される地域を見る目にまとめていきました。
 里山の地形/里山の植生/里山を見る目/木を見る目
 西川林業薪炭林/薪炭林と雑木林/有用樹林と山菜/有用動物
 森を見る目
 ★山を見る目
  ・里山を地域の中で見る
  ・里山を景観として見る
  ・エコツアー・エコツーリズム
  ・歴史文化都市
 この最後の★印の一節に講演者の言いたいことが集約されています。観察しながら木や森を見る目を養っていくと、その眼差しは「里山」に向かい、私たちが言ういろいろな自然を含む総称としての「やま」を見る目を養うことになる、というわけです。それは、自然を人間の生活と歴史の積み重ねとしての文化として見る、ということです。
 最後に、日本の森林学を作った本多静六の紹介がありました。明治の時代に飯能に来て、森林を通しての観光開発を行ったエコツーリズムの先駆者です。

 後半はパネルディスカッションです。各パネラーの発表だけで時間が満杯、ディスカッションにまでいきませんでしたが、私が注目したいのはメンバーです。
 6人のうち2人は市民とのことでしたが、現・元自治会長です。はんのう市民環境会議の方は、市が策定した環境基本計画の実施主体を代表しています。それにNPO市民団体の浅野氏、飯能西武の森の所有者としての西武不動産、そして飯能市環境部。
 これは、市の環境・景観・みどり政策を推進するための強力な連携を示しています。示しているどころではなくて「見せつけている」と言っていい位です。市民、NPO、事業者、行政の絵に描いたような協力体制で、これほどの強力、幸せな連携・一致は例がありません。
 それは、西武不動産が進めてきた天覧山多峯主山一帯を住宅開発する計画を中止した結果によるものです。西武不動産は77ヘクタールを保存林として残すことを決め、飯能市は市の総合計画、環境計画にこれを取り入れ、現在の“蜜月”とも言ってよい関係を築きました。
 NPOの長年の、その前史を含めると30年以上に亘る全国に轟いた反対運動もあってのことですが、西武の開発の目算が外れたことでかろうじて残された景観と歴史です。これを後世に残し保全しようという全市的運動は、傍から見ていてもうらやましい限りです。講演などの啓発も市民に幅広く浸透し、市民の環境基本計画を通じての参加と協働もも実のあるものになっていると思います。傍から見ての感じなので褒めすぎかもしれないが……。
 NPOの活躍も正に水を得た魚の如くです。建築家としての浅野氏のアイディアや考え方も随所に活かされています。全国でも例のないトラストの成功で、NPO法人が谷津の棚田農地を手に入れました。氏によると、自分の人生を変え生き方を決めた展開になってしまったという。
 西武鉄道にとってもよかったのではないだろうか。ここ数年、飯能で開催される、環境関係のイベントも多くなり、最近では全国雑木林会議も行われました。
 政府と国連大学は連携して、2010年10月に名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に、里地里山のような持続的な資源利用を伴う自然共生社会の構築を「SATOYAMA イニシアティブ」として提唱しようとしています。
 おそらく、これから環境や景観や緑に関する内外の国際会議が頻繁に開催され、飯能も誘致に動いて、プリンスホテル稼働率を上げる方針を打ち出すでしょう。プリンスホテルは飲食部門を廃止し、宿泊に全資源を注ぐということだから、いい方向にプラスします。西武鉄道は、保存森林の周辺部においても一体となった都市・自然環境維持を、経営の基本に置くのがいいと思います。世界に認められる日が必ずくるでしょう。
 すべて結構な展開になっていて、市長はじめ行政には飯能の将来のビジョンがはっきりと見えているという感じです。あくまでも外から眺める印象ですが。