里山保全のむずかしさ

 荒川流域再生シンポジウムのテーマの2番目「平地林を保全し、冬水田圃を復活する」(「平地林の保全」と「コウノトリの復活」の二つのテーマで構成)についての討論で、印象に残った意見を取り上げておきます。細かいメモは取っていないので大体のことです。
 質問時間に入ってすぐ「そのような相続税軽減という発想からでは国の仕組みを変えるには弱いのではないか」という意見が出されました。
 さやま環境市民ネットワークは、2005年、活動の拠点となっている平地林が競売される問題に直面しました。これが平地林所有農家による相続税物納の結果によるものだったのです。このままでは、狭山の他の平地林も競売される可能性がある、として調査を開始しました。1年後、平地林保全のために相続税を改めるべき、との要望書を国に提出しました。
 前出の質問では、なぜ相続税からのアプローチでは平地林・雑木林の保全ができないか、については理由が述べられていなかったと記憶しています。
 相続税は国が国民から徴収する税金で、約 1兆5,500億円(歳入比1.9%)です。相続税の詳しいことはよく知りませんが(無縁ということでもありますが!)、改正の動きもあり、その動向によっては、農家長男の相続税に影響を及ぼし、一層の平地林・雑木林を売らざるを得ない状況になる可能性があるそうです。
 税収アップのことしか頭にない財務省に雑木林減税のことを言っても効き目はないと思います。国会への請願もあり、また地方自治体や農業団体からも要望は沢山出ていることから国民的要望であるのだが、一向に耳を傾ける様子はないようです。
 これに関連して、こんな意見も出ました。「平成16、7年ごろ、狭山で農協関係者も含む諸団体が集まって、この問題を話したことがあったが、何か進んだという話は聞かない」。進みっこないのです。
 しかし光明が出てきました。民主党は、政権交代の政策インデックスに、この相続税軽減を明記しています。
 「市民自らが公益を担う社会の創造に向けたNPO等公益団体への遺贈に対する相続税の軽減措置や地域の良好な生活環境維持に資する里山・雑木林等の緑の相続に対する軽減措置を検討します」
 こういう望まれている政策は、速やかに実行してほしいものです。むしろ高速無料化や子育て手当よりも政権交代の好印象をしっかり出せると思うのですが。
 自治体は、財政逼迫を理由に余程必要な土地以外は買い取ろうとはしません。出来ることは、土地の賃借に関わる固定資産税の免除くらいしかありません。
 買い取りをしてくれる制度は、埼玉県であれば「緑のトラスト運動」です。これは行政主導のトラスト運動で、市民や事業者から募った寄付で後世に残す緑地や施設を買い取ろうという制度です。
 昭和59年に運動の推進組織として「さいたま緑のトラスト協会」が発足し、60年に、運動の資金となる「さいたま緑のトラスト基金」が県に設置されました。
 仕組みは、残すべき候補地を県民から投票で選び、しかるべき審査を経て決定されます。現在まで10カ所ほどが対象になりました。投票ですから、候補地がある自治体が全力で応援し、投票を動員して参加します。
 埼玉の場合は、県が主体ですから信用もあり寄付が集まりますが、大半の民間トラスト団体はこうはうまくいきません。資金不足で成功例は少ないのです。日本でトラスト運動が導入されて30年ほど経ちますが、よく話題にされる割には支援の制度も実績もありません。
 こちらも、何も進んでいないのです。お金と土地の寄付を促す制度が未だに整っていないからです。日本生態系協会も日本ナショナルトラスト協会も関連自然団体も、毎年要望書を出しても変わりません。
 議論の最後の方で、トラストの関係者という人が、雑木林・平地林などの里山保全に関してトラストの仕組みが役立っていない、というようなことを発言しました。うろ覚えですが、かなり専門的に話していたようです。その背景には、今書いたようなことがあります。
 私は、最初に相続税軽減に関して発言した人の後に、それに賛成する方向で、大体次のようなことを言いました。
 「相続税軽減の制度は是非必要だが、それはピンポイントで発生する現実に後追い的に対応するもので、より根本的に求められる発想は「面」で、地域で残すということではないか。現在の都市を作っている都市計画法建築基準法も開発促進法であって、それに対して抑制的に機能する、あるいは里山などを積極的に保存する法や考え方がないことが問題だ」と。
 そういう意味ではトラストも同様です。トトロの森のように有名人が関わるとか、行政がバックアップするとか、有名な全国区の場所であるとか、特殊な条件が無い限り成功しません。里山などの普通の場所を一般の市民が残したいと希望する時、それをどう位置付けていくか。土地と言う財産に関わる公と私の問題を考えなければならないと思います。