あずきか、ささげか――妻と母のいうことをめぐって

 昨年は、ささげ(のつもり)をたくさん播きました。2か所から頂いた種があったことと、そもそも種がほしいと思ったのは、ささげは何であれほど値段が高いんだろう、と疑問に思い、自分で播いてみることにしたからです。それに、赤飯が好きだったので、自前のもち米とささげで赤飯を作ってみたいと思ったからでもあります。
 私の場合、豆類は、播いたら収穫するまで一切何もしませんから楽です。ささげについて知っていたことは、熟すのが一度ではないこと、収穫が遅れるとさやが割れて中身が落ちてしまうこと、このくらいのことです。
 播いたのが時間差があったので収穫は9月から10月末まで熟す具合をみながら行いました。最終は秋も深まった10月末ころ。刈り取るのはもっと速かったが、稲と同じようにしばらくはざがけして乾燥させてから中の実をとりだしました。
 そのころ農家の人と話していて、ささげのことを話したら、今時ささげが採れるはずはない、小豆だろうと言われました。絶対に小豆だ、と何回も断言され、ずーっと気になっていました。



 豆は選別が大変。写真の箱の中にあるのが選別されたもので、これが口に入る直前です。箱の外は未選別です。これは、大きい額縁に紙を敷いてその上に広げてあり、不熟や虫食いをピンピンと指ではじきだしていきます。めんどうです。時間があればのんびりやればいいのですが、そうもいきません。テレビで見た地方行脚の観光番組で、おばあちゃんが、お盆の上に広げてはじいていました。大規模栽培はいろいろな手法での機械選別です。小豆の場合、こだわりの和菓子屋さんは産地段階から手選別を行っています。
 乾燥したさやをつぶしてまめを取り出し「とうみ」を何回かかけて残ったのが写真のもの。ここまでかなり時間がかかっています。さらにここから最終選別です。機械選別も1回通せばお終い、というわけではなく、さまざまな工程が入ります。ささげがなぜ高価か、手間がかかるからだと分かりました。
 さて最初に試験的に赤飯を少量作ったときは、急いだので豆がふっくらせず失敗。それではと、ストーブに鍋をかけて煮ました。それを食べた妻は、「これはささげじゃない、小豆だ」という。理由は、ささげはこんなにやわらかくならない、煮ても割れない、とのこと。
 小豆だ、という断言はさておき、理由はその通りです。赤飯は祝いものとして食べられるから、豆が胴割れしてしまうのは縁起が良くないとして、小豆ではなく割れない固いささげが使われます。これはもう定説です。したがって、煮て割れてしまうから小豆だという妻の理屈は、その限りにおいて正しい。
 煮た豆を食べた妻は「こんな旨い豆を食べたのは初めて」という。砂糖を入れない素のままで旨い、と。
 そう言われて食べてみると、なるほど、豆らしい香ばしさとかすかな甘みとプリッと割れる感触がない交ぜになって、これは旨い! 砂糖なしでどんどん食べられます。 
 こんな旨いのは母にも、と持っていきました。そして、小豆だという妻の断言を言うと、「そんなバカなことなない、ささげだ」と断言する。「ささげだと言って貰ったんだ」とも言う。そう、種の一部は、母が散歩の途中で懇意の農家から「ささげ」として頂いたものの一部なのです。
 さて、どっちだ。こういう選択局面は久しぶりです。
 そこで、実際に販売されているささげと小豆を観察に行きました。マミーマートとコープです。仔細に観察してみると、何と言うのかあの部位は? ささげの円錐曲面の反対側の白い線、これが違う。いずれの店も、岡山産のささげと北海道産のあずきで、条件は同じです。
 ささげは、白い線が明らかに短い、小豆は白い線の長さがささげの3倍くらいある。持っていった自分の豆を見ると小豆と同じくらい長い。実物検分の結論は小豆です。
 その足で母の所へ行き、結果を伝えると「そんなバカなことはない、ささげだ」とまた言います。私もささげのつもりで播いたから、ささげだと思うのですが。
 「こんなときに採るなんてささげではない」と農家の断言。
 「こんなにやわらかくなるのは、ささげではない」という妻の断言。
 初めてつくったので、一応これらの感想は謙虚に受け止め、確認の努力をしました。
 「そんなバカなことはない、ささげだ」という母の断言。
 さて?。母がこんなことを聞きました。草の形はどうだったかと。つるが出たかと。
 つるがでました。ボーボーとつるがもしゃもしゃした感じで伸び放題、ささげはこんなにつるがでるのかと驚きました。途中から竹で手を作りましたが、時遅くからまり状態のまま収穫でした。
 母の一言で一応納得しました。無肥料の自然農業で栽培していると、姿形が売られているものと違ってくることがよくあります。白い線の違いもその一つかもしれません。大粒と小粒の種類もあるようです。ささやかなささげの話でした。