年始の話し

 師匠の所へ年始に行ったら、まき割をやっていました。
 「あれっ、もう仕事?」。「腹ぺらしだ」と言いながら、いつものストーブ小屋に招き入れてくれました。師匠は、秋から春にかけて、ストーブ小屋の火を絶やしません。雨の日は日がな一日、ここでくつろいでいます。
 こんなストーブ小屋があればいいな、と思いますが、大きな鉄瓶にチンチンと湯が湧く音を聞き、まきが燃える柔らかな暖かさの中で、本を片手にちびりちびりとなったら沈没してしまいそうです。私にはまだ、風が吹き抜ける掘立小屋であーだこーだと思案しているのが似合いそうです。
 昨年の回顧をしながら今年はどうしようかなどと話し始めたら、師匠が、「去年の出来はどうだった?」と聞いてきました。
 ああ、そう言えば、まだ師匠には収穫の数量は知らせてなかったのだ。暮の挨拶に行った時も、ハーベスターと丸太のことばかり話し、田んぼのことは触れていませんでした。師匠だけではありません。確か、ブログでは集計が楽しみだ、と書きながらその結果はまだ書いていませんでした。人前でしゃべったのは、まちづくり勉強会の忘年会の時だけです。年賀状を書く材料にするつもりがあったので、何となく人に話すのを避けてきたのかもしれません。それにしても、師匠に話していなかったのは、うっかりしていました。
 「560キロ、9.3俵です」
 「えっ」と言って師匠は、私の顔をまじまじと見ました。
 「本当か。計り間違いじゃないか?」
 一袋ごとに計量した数字を合計したものであること、2回計量したことを言うと、「確かに見た目も、茎をもった感じからも出来はよかったけど9俵とはなぁ」。そして、後ろの戸棚からノートを取り出して、メモをしました。師匠がメモを取るのを初めて見ました。
 結局、豊作の原因は何だったのか、結論は出ませんでしたが、人為よりもつまり私の技術よりも自然の力であることは一致しました。師匠の観察の目は確かで、雑草ボーボーの力もよく知っています。
 私が年中、除草剤の悪と生き物の価値を言うものだから、師匠もお茶の消毒を止めました。いま私の家族は安心して毎日、師匠のお茶を飲んでいます。今年は、野菜関係の消毒も(現状でも使っていないも同然ですが)止めてくれたらいいなぁ、と密かに思っています。
 無農薬の安全な野菜を味わってもらうために軒先販売を始めること、そこに師匠の作ったものも置きたい、ということを言いました。師匠の目が輝き(と勝手に思ったのだが……)、雨風凌ぐ売り場を作るための丸太を、私が京都に行っている間に切り出しておいてくれました。