ホームセンターA氏のビジネスモデル

 ガラクタに近いものもありますが農機具をいろいろ持っています。田んぼをやっていることもあって、普通の農家より多種類を持っていると思います。
 新品を買ったこともありますが、ほとんどはネットオークションで中古を購入しました。ものによって価格はいろいろ。程度によってですが、信じられないくらいの安い価格です。当初は、妻から大分、文句を言われました。大したこともやらないのに、そんなガラクタばかり揃えてどうするのと。今でも時々言われますが、もう口癖になっています。
 傍から見るとそういうふうに取られるのかもしれませんが、農業を理解するには、機械と労働の関係を理解しなければわからないと思っていました。また機械の操作を実際に習得することで、農業近代化の流れが身体で分かるのではないか、とも考えていました。
 ただ単に無農薬の農業をやるというのではなく、慣行農業(有機や無農薬の農業に対する一般的農業のことをこう呼びます)の全体を理解したい。そのためには農業の手法・考えかたと技術・機械の相互関係を実際の栽培で経験することが必要ではないかと。そう考えて機械を一通り揃えていきました。
 その機械。農業を始める時、今は引退しているかつてのベテラン農家の人から言われました。本当にやるんだったら農機具代に最低300万円かかると。(何だかんだといっても、だから出来っこないんだよ、という言外の意味が含まれています)。もちろん新品など買えません。新品買えなくても成算あり、ネットオークションとなるわけです。
 オークションの機械は新品に近いものからポンコツに近いものまで千差万別で、いいかどうかを見分けるのは写真を見て、説明文章を読んでのカンに頼らざるを得ません。大体、“あたり”ですが、たまには“はずれ”もあります。
 さて、そろそろ本題。こういう機械だから当然、故障は付物です。壊れる可能性は高いのです。壊れたら自分で直さなければなりません。壊れたことで文句を言わないのは、一応オークションの決まり、礼儀です。説明文と異なる初期条件によってはもちろん交換、返金もあり、経験したこともありますが、文句無しが基本。
 自分で直すと言っても、エンジンへの興味と関心はあっても、経験も知識もないから本を買って勉強したりの試行錯誤と手探りです。どうしても分からないことは専門家に聞かなければなりません。専門家と言えば当然、農機具店です。
 ここからが本当の本題。
 結論から言うと、今までの経験から農機具店は、とても我々素人農家を相手にしてくれません。但し、新品を買うといえば、それこそ笑顔で応対してくれます。これは商売の常識。しかし、その店で買ったものではない機械の修理や、新品で買ったものでも小物の修理などは非常に敷居が高い感じです。
 既存農家を対象に、大型機械や高機能機械の新品販売で利益を出さなければならないので、細かいものや一見の修理依頼に冷淡になるのはやむを得ないのかもしれません。それにしても、その冷淡振りには驚かされます。
 ということで、自然に農機具店には行かなくなり、自分でやらなければなりません。どうするか。幸いに、二つのアプローチがあります。
 一つはわが師匠。師匠は機械にめっぽう強く、大体自分で直します。それは、長年の経験で覚えたものらしい。構造についての詳しさもさることながら、いろいろな使用条件下での対策もいろいろ知っています。こう言う場合はこうすればいい、という現場に即した解決法です。
 もう一つは、あるホームセンターのA氏です。ようやく本題に着きました。
 A氏は新しく出来たホームセンターの農機具担当です。開店してすぐ部品を買いに行った時、A氏はその部品の使用条件について詳しく説明してくれました。修理サービスを開始したので、修理も依頼。程度に関わらず応じてくれる気軽さは本当に有り難いと思いました。
 その時々に応じて、A氏は故障の原因分析とそれを解決するいくつかの対策を示してくれます。そして対策のなかに、そのホームセンターが扱う部品を位置づけ、なければ取り寄せる条件を提示してくれます。
 どういう使用で故障に至ったのか、を聞き出しながら、新品購入を含む選択肢を提示してくれるのですが、その話が私にとって貴重な学習の場となります。A氏の惜しみない情報提供と説明と会話で、私はお陰で随分いろいろ学ぶことができました。
 A氏もただの好意でやっているわけではありません。長い目で見たあるブランドへの買い替えを推奨しつつ、部品販売や修理の売り上げを期待しているのです。A氏の身分もあるいは関係しているのかもしれません。契約身分であるが故に、顧客を通じた自身の評価の向上によって雇用の維持を図る――私の想像ですが。実際、A氏を贔屓にする人が増えているらしい。
 いずれにせよ、こういう顧客への説明と選択肢の提示は、何も新しい手法でも何でもなくマーケッティングの基本です。説明の的確さと対策の成功によって、そして適切な価格によって信頼関係が築かれます。
 この方法は何も商売の分野だけではなく、あらゆるサービスに通用するような気がします。公的なサービスにおいても全く同じ。違うのは価格ではなく、サービスの質と税の使途・配分をどういう考え方でどうするか、ということではないかと思います。話合いと説明が深まることによって、信頼性と満足度が高くなります。
 理屈はともかく、私は身近な所でA氏という知恵袋を得て、そして現場での師匠の指南によって、ポンコツロートル農機具を使いこなしていくつもりです。そういう過程から農業への理解も深まると思います。
 一方、“圧縮→爆発”という物理現象を回転という運動に変えていく仕組みとしてのエンジンや歯車の面白さ。中学生の頃よくやったエンジンを分解しては組み立てる「趣味」は、どうやらまだ生きているらしい。それにどっぷりと浸かりたいが、そんな時間は無さそうです。

キャブレターが詰まった散布機と修理に使うコンプレッサー。散布機は普通は農薬散布に使うが、私の場合は天恵緑汁の散布。