NPO法人をつくることの是非

 メンバーとなっているあるボランティア団体で、将来はNPO法人にすべきかどうかという話題が出たり消えたりします。最近の話題として再び(三度?)出ました。いずれは会で議論するのだから、今から勉強しておこうという話です。もちろん各自それなりに知識は持っているのですが、正確であるかどうかは皆自信がありません。
 そこで、いまチラシで広報されている埼玉県の講演に、誰かに聞きに行ってもらって勉強しておいてもらおう、ということになって、私が行くことになりました。
 この講演は、埼玉県のNPO活動推進課が行う3回の連続講座です。
 第1回 ミッションをどう事業化するか
 第2回 元気が出るNPOのファンドレイジング(資金集め)
 第3回 「協働したい」と思われる組織づくり
 演題はなかなか魅力的です。26日の午後、さいたま市の会場「With Youさいたま」に行ってきました。 
 今日は連続講座の第1回。講師は田中尚輝(たなか なおき)氏。氏のホームページから経歴を 引用します(http://www.npo.lsnet.ne.jp/tanaka/pages-8)。
 「1943年京都市生まれ。 社団法人長寿社会文化協会(WAC)常務理事、NPO法人市民福祉団体協議会理事・専務理事、NPO事業サポートセンター常務理事として、高齢者や子ども、NPOに関わる諸問題解決のため、社会的環境整備に精力的に取り組んでいる。とりわけ現在は、日本最大のシニアのためのネットワーク「地域創造ネットワークジャパン」の立ち上げと、シニアによるNPO起業への支援、ネットワークづくり、NPOのマネジメントのノウハウの普及に向けて、執筆や全国的な講演活動に活躍中」
 NPOが話題になるはるか以前から、この分野に関わってきたというだけに、話は面白かったです。私は名前は知りませんでしたが、NPOに関しては最も経験豊富な実践家・理論家であると自他共に認める存在らしい。
 そういう評価をなるほど、と思わせる内容です。情緒的な話は一切なく、現実的で、先覚者としての自信にあふれた話しっぷりでした。それは、配布されたレジュメの項目を見ても明らかです。大項目のみあげてみます。
 1 ミッションの事業化
 2 マネジメントの概念
 3 ガバナンスの重要性
 4 戦略的な展開(リーダーシップとは)
 今までいろいろNPOに関する本や文献を読み散らしてきましたが、どうも隔靴掻痒、今一つ頭がクリアになる感じではありませんでした。こちらの読み方が悪いのかもしれないし、設立を目前のこととしていないからかもしれません。
  あまり期待もせずに来た講演で、さいたま新都心に一度も行ってないから様子を見に行ってみよう、くらいの気持ちで来ました。ところが、レジュメを見て“しめた、儲けた”という気分になりました。レジュメのこの見出しを見ただけで、どういうレベルの話をするか、見当がついたからです。
 期待通りの内容でした。田中氏の話はすべてこの4つの概念、意義、関連性と評価に収れんし、極めて合理的で分かりやすいものでした。
これらの言葉からわかるように、企業行動の合理性をもってNPOを法人化し運営すべき、ということです。企業と違う所は「ミッション」で、企業の場合は、この「ミッション」が「ニーズ」となる、と思います。
 この違いこそがNPOたらしめる最も根幹のところであり、また最も悩ましい目標なのです。企業によるニーズの事業化による利益極大化は、誰が何と言おうと、単純・明快、その通りなのですが、ミッションとなると、事情は違ってきます。
 NPOにおける「ミッション」とは、理念や理想という抽象的なものです。これをいかに情熱をもって追求できるか、NPOの使命はそこにあります。しかし、情熱だけでは運営・活動ができない(恋愛と結婚のよくある話と同じです)ので、事業を行う必要があります。ところが、こっちの方に熱中するとミッションがおろそかになる。そこで、このバランスをどうとっていくか――理事会の役割などガバナンスを機能させながら情熱をもってリーダーシップを発揮しなければならない
 簡単に言えばこういうことになります。今まで脈絡もなく頭に詰め込まれた知識がするすると整理され、束ねられた思いです。
 講師の結論の言葉はこうでした。
 「人を誑かし(たぶらかし)、自らを誑かす能力を磨け」
 そのためには、「悪党的思考をすすめる」
 後者については、このタイトルで本も書いているそうです。刺激的な言葉が並んでいますが、長年の経験でつかんだエッセンスで、非常に示唆性に富む含蓄ある言葉です。凡人が飛びついてもこの境地には到達できません。一歩一歩の積み重ねしかないと思います。
 情熱に+αするものとして何が重要か、田中氏の話の真骨頂はここにあり、非常におもしろかったです。行った甲斐がありました。トクした気分です。