ヒエはどこに消えたか?

 なぜヒエが消えたのか? ヒエだけではありません。『田の雑草図鑑』に出ているほとんど全ての雑草があった程なのに、出てきていません。 
 毎年ヒエに完膚なきまでにやっつけられていたので、田植え直後に出てきた発芽をヒエと間違えました(http://d.hatena.ne.jp/hideoyok/20090630/p1)(http://d.hatena.ne.jp/hideoyok/20090715/p1)。その後も一本も見当たらないことに喜ぶばかりが先行して、頭の中で「なぜか、なぜか」と問答を繰り返していました。
 ある日、水底の泥をすくってしげしげと眺めていたら、パッとひらめきが走りました。“トロトロ層”です。何でこれに気が付かなかったのか。自然農業の研修や実地見学であれほど勉強してきたことなのに、とその時思いました。まさか、自分でやっている田に発生しているとは思わなかったのです。
 無農薬稲作の技術にはいろいろなものがあります。“トロトロ層”は、あい鴨農法などと並んで最も有力な技術で、無農薬稲作を目指す者には常識の概念です。鴨が入っている田はテレビ的な話題としていいのでよく取り上げられますが、トロトロ層は水底の見えない現象で、画像一発で説明できることではありません。そのせいかテレビで放映されることはありません。その結果、安全で美味しいコメを作る最も基本的技術なのに一般には知られていません。
 トロトロ層とは、田の水底の表層にある非常に粒子の細かい土のことを言います。表面はチリのようにふわふわしていて、その下は均一になめらかなクリーム状になっています。
 このトロトロ層が雑草抑制効果を発揮します。雑草の種は比重の違いで、細かい土の下に沈み込み、発芽にまで至りません。いったんもぐったタネは二度と表層に出てくることなく、人間が手をかけることなく、自然の仕組みで除草が可能となります。
 このトロトロ層の除草効果は際立っており、『現代農業』誌でも沢山の成功例が報告されています。
 除草だけではありません。微生物やミジンコほか土の中の小動物が増えて、根が自然の栄養素を吸収して成長する環境をつくります。また、田全体の生物相の豊かさは、動物と植物の相互作用でバランスを保ち、人間が手をかけなくてもコメができるようになります。
 このように、肥料が要らない、生物相が豊富になる、コメの味がよくなる――など無農薬稲作の理想を実現させる仕組みとして多くの農家が取り組んでいます。
 では、なぜトロトロ層ができるのか、誰でもできるのか――その条件が一定していないところに難しさがあります。私のやっている田にできたのは、いくつかの偶然と意図して行った作業のの一致であったと思います。

 
 モチゴメの中に5、6株の変わり者。もう花が咲き出穂(穂がでることを「しゅっすい」と言います)しています。遅く植えたのにこの速さです。変異か別の種類が混じっているのか、おもしろい現象です。印を付けてこのモミだけを採取して増やせばオリジナルの早生種になるかもしれません。