わが友憤死にめげず

 家の門の所に咲いた虎の尾。地味な花ですが、優美な花の曲線が好きです。これは10年くらい前、奥多摩をドライブした時に一株採ってきて植えたのが増えたもの。虎の尾は増えるのが難しいそうですが、あちこちに咲いています。見てください、この末尾がわずかに反り返った曲線の美しさ!(!を3つ、4つ付けたいくらいです)

 今日は田んぼにいかず麦刈に専念。というのも、―昨日、予定外のところに余った苗を植えようと思い、耕運機で耕していたところ、エンジンが焼き付き、ついに、オシャカになってしまいました。狭いところながら田んぼの真ん中で、うんともすんとも言わないただの鉄くずになってしまったのです。
 これは非常事態です。この鉄くずを田んぼから出さなければならない。そのあと、どうするか。いろいろな対策が頭を駆け巡ります。何を優先すべきか。師匠の力を借りなければならないかもしれないが、まずは自力でやってみよう。
 しかし、なぜこういうことになったのか。予兆はありました。前日、スロットルのワイヤーが切れました。これは、本来備わっていたのが以前に切れてしまったので、草刈機のものを流用して取り付けたものでした。夕闇迫っていたので分解して取り外し、翌日の部品購入に備えました。
 そして、別用があったので帰りに師匠の所に寄った時に、この一件を話しました。師匠は納屋の奥に行き、ほぼ同じ部品を手に戻ってきました。相談すれば、常に適切な解決策を示してくれる経験と知恵にいつも脱帽です。
 翌日それを取り付け、レバーの動きにエンジンが反応するのを確認、よしOK、とエンジンを全開にして作業再開。今年は作った苗を無駄にせず全部使い切れる、と気も軽やかでした。ところが、5メートル進んだ時、キーキーカリカリという音。こんな音聞いたことがない、もしや、と思いスイッチを切る。そして再度エンジン起動のリコイルひもを引っ張るが全く動かない。明らかに焼き付きです。これはピストン式エンジンの御臨終を意味します。軽やかな気分も一瞬のうちに暗澹たる思い。
 エンジンを起動した直後に、泥田の中での耕運という負荷のかかる作業を急に行ったため、対応できなかったのです。人間でも同じ、準備運動をしないで急に始めれば心臓麻痺を起こします。
 こんなわけで、満身創痍のオンボロながらの我が手足となって働いてきたマメトラは鉄くずとなってしまいました。そして今日は麦刈と相成った次第。
 とは言っても田んぼの水が心配で、夕方見に行ったところ満水状態。こんなに水の条件がいいのは初めてです。毎年、みず!、水!、ミズ!、と思い続けてきたから、こんな満水田んぼを見れるのは幸せです。鉄くずの姿をチラッと見たが、この対策が大変だとは分かっていても、満水田んぼの幸せ気分が勝りました。
 帰りに母親の所に寄ると、テレビに例のシーンが映っていました。「Britain 's Got Talent」。いいタイミングです。今夜は、スーザン・ボイルも少し出ましたが、ポール・ボッツが主です。彼の出演までのドラマと当日の状況、そしてその後の世界的活躍と2度の来日。何度見てもいいものです。実際は3度目。いずれも番組で目星をつけた訳ではなく、偶然でした。今度、日本に来た時は見に行こう。
 満水田んぼとポール・ボッツ――楽しく前向きな気分になれます。
 鉄くずをどうしようか。いくつかの策はあるが。