くちばしが黄色いやつ

 畑から帰ると、部屋の中が鳥の鳴き声でやかましい。随分近くで鳥が鳴いているな、と思ったら、花瓶を入れる竹かごの中に鳥がいます。
 妻が外出先から連れ帰ったとのこと。歩いていたら頭上から落ちてきて、よたよたとしていたから小銭入れの中に入れて帰ってきたそうです。巣から飛び出したのはいいが、未熟な飛翔力とこの暑さで失速したのかもしれません。電車の中でもチュン、チュン鳴いていたようです。
 とにかく、よくなきます。この鳴き声は庭に来る鳥と同じで、聞き覚えがあります。しかし、何という鳥なのかわかりません。顔の両脇が白いところは、シジュウカラとコガラによく似ています。たぶん、シジュウカラだと思うのですが、確信は持てません。
 
 よく見ると、「くちばしが黄色い」です。鳴き方は一人前ですが、やはり飛び方は“経験浅く未熟”だったのでしょうか。人の評価を少し貶める感じで「くちばしが黄色い」といいますが、くちばしが黄色い小鳥はいかにも幼い容貌でかわいい。なのに、“経験浅く未熟”という比喩なのです。
 子どものころ、こういう小型の鳥を育てたことがありますが、エサをやるのに苦労したことを覚えています。口を開けてくれないのです。こいつも、そうだろうと思ったのですが、違いました。
 妻が昼食のおかずを摺って割りばしの先につけて差し出すと、大きくくちを開けて食べるのです。よく食べます。

 これなら心配がない。育てられるでしょう。シジュウカラは昆虫などをよく食べるそうです。庭でミミズや虫を取ってきた与えた所、1.5センチくらいの毛虫を飲み込みました。そのあと、首を垂れて眼をつぶり時々、口をもぐもぐさせます。これを何度かやって、こっくりをするように眼をつぶって首をたれています。満足したのだろうか。
 夜、田んぼから帰ってくると、カーテンで暗くした窓際に竹かごが置いてありました。そっと見ると、横にした首を身体の中に埋めて寝ていました。どんな成長振りを示してくれるか楽しみです。

 朝起きてみると、小鳥はかごから飛び出し、カーテンに引っ掛かって逆さになっていました。妻が両手に包んで温めてやったら一声、二声鳴きましたが、しばらくして動かなくなってしまいました。可哀そうなことをしました。あれだけ旺盛に虫を食べたのだから放してやった方が良かったかも。しかし我が家の周囲は、野良猫の縄張り争いの戦場、放したらどうなったか。