横田基地入れず

 2月27日午後、雪混じりの雨の中を車で横田基地に向かいました。横田基地に入れるなんてめったにない、一緒に行くと妻が同行。進行方向左側にフェンスが続くうちに最初のゲート。ここかな、とハンドルを切る。早速、銃を担いだ衛視が寄ってきました。
 「どちらへ行かれますか」と日本語で。ホッとしました。説明したところ、というより「学校」というただ一言以外に何の情報も無かったので、ただ「学校」という言葉を3回急いで繰り返しただけなのですが。
 「ゲートナンバーは分かりますか」という。分からない、と言うと、次のゲートを入れと言う。衛視前をUターン、国道に出て次のゲートに向かいました。
 今日は、横田基地内のアメリカ人学校で「有機農業」について講義をすることになっていました。アリサンからの依頼で、アメリカ人小学生に無農薬農業の話をしてほしい、通訳は付ける、やさしく分かりやすい話で、校舎の屋上を利用してやり始めたのだがどうしたらいいかわからないらしい――これが説明だった。
 後で分かったことですが(話の成り行きを自分で理解できなかっただけなのかもしれない)、アリサンのジャック社長の友達が米軍の学校の先生で、その先生からの依頼でした。
 さて次のゲートが見えてきました。ここは信号もあってゲートが交差点の一方に立ち塞がった格好になっています。先ほどのゲートよりも大きく、傍らに駐車場もあります。ここだな、と思って車を進めると衛視のストップ。
再び「学校」と言うと前の駐車場を指示され車をつけました。連絡用の携帯に電話を入れると、すぐ目の前にいました。車から降りてきた背の高い中年の男性と目が合うと、お互いにどちらからともなく「ハーイ」と声を掛け合い、握手。彼が先生らしい。
 指さす方向に後を付いて行き、建物の中に入ると大勢の人がいました。どうやら検問所で、基地の敷地に入るにはここで身分の証明が必要らしい。カウンターの向こう側に若いきびきびと話す軍装の担当者がいます。まず車検の提示、それから免許証を証明書として用紙に記入して提出しました。
 じっと見つめていた係官。暗証番号は、という。暗証番号? 免許証に暗証番号なんてあったっけ? 怪訝な顔をすると、ICチップ入りの新しい免許証はそうだと言う。国籍蘭が空欄になっている代わりに暗証番号での証明になるという。なるほど、妻の古い型の免許証は国籍が入っている。いつも使っている番号を入れてみる。ダメ。3回間違えるとロックがかかるとのこと。思い出せない。
 「番号が合わなければ入れません」若い係官は通りのいい声できびきびした調子でいいます。そりゃそうでしょうね、規則は規則。ギブアップです。後ろに若いアメリカ人の女性が行列を作っていました。
 やりとりを見ていた先生は困惑し、カウンターから離れて口を開きました。今日は止めにして、自分が生徒に説明する、可能であれば日にちを変えて来てもらえるか、とのこと。もちろんOKだ、とおぼつかない日本語を話す女性に言いました。こちらの英語が覚束ないのはもちろんなのだが。
 その時、ふと思い付きました。日本自然農業協会の英文のパンフレットを持ってきていることを。それを取り出し、これに自分がやっている無農薬農業の説明が出ていると言うと、先生は非常に喜び、これを参考にして話すとのこと。再会を約してゲートを後にしました。
 免許証の暗証番号ご存知でしょうか。確認しておいた方がいいです。忘れたら警察で教えてくれます。いつどこで必要になるかも分かりません。
 こんなわけで、世界で一番厳しい検問を通過できませんでした。しかし先生は握手した瞬間、好感を感じ誠実な人柄が分かりました。後で彼がアリサンのジャック社長に電話してきた時、私のことを「彼は誠実なファーマーだ」と言ったとのこと。嬉しい言葉です。