新井家住宅

 新井家住宅は、平成20年9月の定例会に提案された補正予算(調査委託料886万円を含む)1憶5894億円で購入されました。江戸中期から後期にかけての書院造り風の木造建築の母屋と客殿、土蔵を含む約1万2651㎡と宅地3183平方mが対象ですが、予算の大部分は土地代です。市は歴史的・文化的価値がある建物と判断して購入したとのことです。今後、建物の修繕調査や山林整備などを行い、利用法を考えて公開するとのことです。

 購入に先立って提案された予算の審議が議会で行われました。この補正予算の議案に結果的に反対した3人の議員が質問したことです。その際の議論のポイントはいくつかありました。まとめてみると、次の5点になると思われます。
 1 補正予算を組み、この会で議決を行ってまで急いで購入する理由は何か
 2 財源について
 3 隣接する土地の取得の可能性について
 4 調査委託の内容
 5 寄付について
 【急ぐ理由】「本来は建物を調査した上で、値打ちはどのくらいあるのかを踏まえながら、予算を計上する、これが本来の姿ではないか」という疑問に対し「新井家住宅を含む巾着田周辺の地域は、シンボル的な景勝地で後世に引き継ぐべき貴重な財産。この点で所有者の賛同を得たので、土地の鑑定を行い、話合いを進めてきた結果、話がまとまった」
 常識的な解釈からすれば答弁からは急ぐ理由は理解できませんでした。寄付金ということもありますから、何か土地取引上の理由があるのかもしれません。
 【財源について】「十二分に手を尽くして、公的資金で何とかしたいと調査をしてきたが、だめだったので、用地の取得についは市の一般財源を使う」
 結局、国や県の資金を導入する手立てがなかったのでしょうが、どんな種類の公的資金にアプローチしたのかそれが知りたいところです。尤も6月土地鑑定調査費を計上して、バタバタと急いで買おうという要望に合致するほどの都合のいい公的資金などないのではないかと思います。
 この種の保存に関して最も一般的なものは埼玉県のトラスト資金です。これは、減少する平地林の保存を主な目的として、県民の寄付金やあるいは土地そのものの寄付などで成り立っている事業で、寄付の積立金は土地買収費に充てられています。現在まで11か所の土地に、1億から最大8億円くらいまで県のトラスト資金を投入しての公有化が実現しています。また、新井家とちょうど同じくらいの広さの屋敷林の寄付がさいたま市で行われています。市民の投票や自治体の後押しなど選定は広く意見を募りながら行われているようです。
 日高市周辺では、飯能河原の周辺山林取得に約3億円、鍛冶丘陵約5億円、狭山市の山林5億円などがあります。兼ねてから私はトラスト制度の趣旨や県のみどり再生保存政策に関心をもっていましたが、日高市ではそのことに触れられたことは一度もありません。それは無理もないかもしれません。里山、平地林は保存の対象ではなく、一切制限を設けることのない開発の対象として考えられ、実際そういう土地政策が行われてきました。平地林を保存するという発想など、政策関係者の関心の対象になっていないと思われます。
 また巾着田についても、もっぱら産業振興の面からの政策が中心で、景観やみどりの保全という観点からの政策は薄いと思われます。新井家の取得を契機に景観やみどりの保全に目が向けられればいいと思います。
 【隣接する土地】この土地の形状からすれば2か所のへこんだ場所の取得は当然でしょう。
 隣接する土地の面積は、畑の部分が1,550平方メートル、山林部分は1,735平方メートル、雑種地は790平方メートル、これの取得にまだ数千万円かかるわけです。

 隣接する土地ではありませんが、今は住宅地となった雑木林だった対岸の土地の重要な価値に改めて気付かされます。このことについては『市民の財産巾着田を考える』でも触れました。平成10年頃出ていたこの土地を公有にする話は一向に進展せず、結局、宅地開発となってしまいました。この河岸の広大な雑木林の消失には、地元の人々をはじめ多くの人が嘆きました。
 公有となっていれば、川を挟んだ広大な両岸がみどりと景観保存が可能となり、巾着田を中心とする環境と観光の価値は極めて大きくなったはずです。そして駐車場や観光施設の配置に工夫の余地が出てきたはずです。この景色を見ると未だにそう思います。残念でした。

〔左が新井家住宅の裏山、右がかつて雑木林だった所。今は宅地〕
 そして土地の取得といえば、巾着田の中でもありました。巾着田の真ん中の田んぼが宅地になっても良しとする土地の規制緩和政策の結果、田んぼが不動産会社の手に渡り現実のものとなった時に、やはりこれはまずい、ということになって不動産会社から購入しました。
 新井家住宅v………………市が補正予算を組んで至急購入
 河岸雑木林…………………市は購入せず結局、民間で宅地化
 巾着田内田んぼ……………市は、土地の規制緩和の結果を、今度は保全策として買い戻し
 「巾着田日高市のシンボル、景勝地」と、新井家取得に当たっての答弁で市はこう言います。3つの土地の背景を考えると、単なる言葉ではない整合性ある政策による実現を図ってほしいものです。
【調査委託】「建物の現状調査として敷地の測量、建物配置図、各建物の平面図、立面図、断面図の作成、各建物の写真撮影、耐震調査として構造補強調査。歴史復元調査として、母屋の復元図、沿線図等。損朽調査として、現在傷んでいる箇所の調査、最終的には復元に伴う基本設計などを含めた調査報告。文化的価値を確認するための調査」(生涯学習部)。これが886万円です。
 新井家の急いだ取得には何か理由があったのでしょうが、少なくとも民間の手に渡らず開発の対象とならない事を前提とすればよかったのではないかと思います。どんなふうに利用するのか、後背の山林をどうするのか、さらに周辺をどうするのか、市民の意見をどう聞くのか、これからに注目したいです。
 それにしても、今後、隣接地の取得や家屋内外の整備、修理に億に近いお金が必要になるかもしれません。正に、“第二次巾着田整備計画”の目玉です。とすれば先にブログで書いたように、活況を呈している巾着田整備事業は3億円どころかもっと資金が必要になると思います。市がどんな構想を描いているのか知りたいところです。