ジャーナリスト、池上彰氏

マスコミでは、後藤さんの殺害の報に接して中東専門家の議論が沸騰しています。
専門家と言っても視野狭窄あり、常套的倫理表現での憶測解説も非常に多い。
私達は、報じられる情報や言説を通じて、自分の考えを磨くしかない。それによって、自分の生き方と、家族と地域と日本が存在する意義と、世界と地球との関わりをささやかながら考え続けていかなければならないと思います。

2日の朝日新聞に、5人の専門家の意見が同じ分量で並べて掲載されていました。いろいろな意見の持ち主が配列されています。当然のことながら、首相の行動は間違っていない、あるいは有志連合に参加せよ、という意見も披瀝されています。池上彰氏の意見も掲載されていました。
・全てはアメリカのイラク攻撃から始まっていること。
イスラム国の経緯と統治の実態。
アメリカの空爆に加わっているヨルダンへの日本の資金援助。
イスラム国支配地域周辺には親日国多く人道支援は必要。
・番組で知り合った後藤さんは危険を判断できるジャーナリスト。
・戦争は誰かが現地に行き取材しなければ忘れられてしまう。
これらの記述から私は、池上氏の文章に最も心を動かされました。中東の今の状況が「アメリカのイラク攻撃から始まった」というのは、必ず触れるべき前提条件だと私も思うからです。誤った認識で日本も参画したその時の検証が行なわれていない現状からすると、専門家がここから文章を始めることについての見識を考えます。今回の掲載記事は、事実としての材料の選択とそれについての正確な解説で、明確に自分の考え方を提起していると思います。
池上氏は新聞、テレビ、雑誌、単行本と、マスコミに引っ張りだこでよくこんなに時間があるな、と思うくらいです。著書が次々と出版され、私も何冊か読みました。池上氏は、穏やかな口調と物言いや中庸的解説が人気で、直接的に自分の意見を語ることは少ないようですが、全体としての事実の選択と材料のラインアップから立ち位置は明らかです。
肩書きはジャーナリスト(NHK記者を経てフリー)です。朝日新聞掲載拒否のように、個人をつぶす組織的対応には毅然とした態度をとりました。また、事実としての裏をとることの重要性と謙虚さは、いろいろなところで強調しています。池上氏が人気があるのは、このことを徹底して実践していることの信頼感を読者とマスコミ界から持たれ、評価されているのだと思います。
こんな記憶に残る記事があります。都知事候補についての誤報が流れたとき、裏を取らずに記事を流した産経新聞の次のような対応についてです。
――記者に経緯を説明したい旨の連絡を入れても何日も連絡がなく、そのことを含めて記事に書いたところ、産経政治部長から連絡のメールを送っていた、という連絡があった。しかしその事実なく、「私から「メールが届いた」との返信がなかったら、「届いているか」との確認をしてほしかったと思うのですが、そこまで念を入れた対応ではありませんでした。」と池上氏は書いていました(朝日新聞池上彰の新聞ななめ読み」2014年1.31、2.28)。
この記事も穏やかな書きぶりでしたが、ジャーナリストとしての気概を感じさせるものでした。