原発討論

 9日、母の所で台所に立っていたら、NHKスペシャルが始まりました。「シリーズ原発危機」の第3回。約3時間の長時間討論、その間にドキュメントが入る。途切れ途切れに最後まで見ました。
 原発事故担当大臣細野豪志
 原子力安全委員会専門委員・北海道大学教授 奈良林 直氏
 21世紀政策研究所研究主幹 澤 昭裕氏
 元原子力プラント設計技術者・芝浦工大非常勤講師 後藤政志氏
 環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也
 ノンフィクション作家 吉永みち子
 豪華メンバーです。奈良林氏は筋金入りの原発推進というより信奉論者。澤氏は両方に理解を示す折衷論者。後藤氏はかつて原発の製造に携わった技術者として完全反対論者。飯田氏は事実とデータを社会的・技術的両面から合理・非合理を語れる自然エネルギー推進論者。吉永氏は市民感覚の代弁者。それぞれの方を簡単に表わすとこういう表現になると思います。
 私は以前から原発廃止の立場だから、討論の結果によってどうこうではない。関心は飯田氏と奈良林氏の対決です。さらに、そこに澤氏がどう割って入るのか。議論がどう噛み合うのか、噛み合わないのか、その辺が私の見所、聞きどころです。
 結果はやはり噛み合わなかった。飯田氏と澤氏はデータの背景を共有しているようで、前提の置き方や認識の違いはあっても話が噛み合う可能性が感じられたが、奈良林氏とは全く噛み合わなかった。
飯田氏は舌鋒鋭く奈良林氏の背後にある原子力推進の矛盾の構造を指摘しても、奈良林氏は涼しい顔をしています。 まぁ、これは当然かもしれません。奈良林氏の原子力への絶大な信頼とそれは技術で維持できるとする考えと、根本から原子力を否定する飯田氏と後藤氏が噛み合うはずはありません。奈良林氏は、安全を確保できるとする技術の話になると、顔が輝きいきいきとしてくるように感じました。そして話が脱線して司会者が修正するという場面がいくつかありました。日本を54基(原発)のエンジンを持つ航空機にたとえるなど、常識はずれも感じました。
 時間が長ければ理解が進むというわけではありません。時間が短くても、正にエッセンスのみを取り出して解説する民放の朝ニュースは、早くて分かりやすくて簡潔で、ということで頭にすっと入ってきます。これだからテレビは怖いのですが。
 テレ朝のニュース番組にここ2日続けて出た経産省の古賀審議官の解説と突っ込みレポーターの話。今日明日にも退職勧奨を迫られている古賀氏が経産省に出勤する前の出演は、非常にリアリティーがあるうえに、話の内容は重要ポイントがよく整理され分かりやすかった。
 やはり当事者です。業界と政策の裏の裏まで知っている人の話に説得性が感じられます。国を差配する巨大な力に抵抗して闘う、次官と同等の地位にあるトップ官僚など、そう出現するものではありません。
 反原発官僚古賀氏が経産省退職を迫られ、九州電力のやらせメールが明らかになるなど、日々起こる現象を見ると、国の進路を問う課題に積み重ねた議論で方向性を出していくことの欠如を思います。
 「再生可能なエネルギーへの移行には政治的意思とビジョンが必要である」と、駐日デンマーク大使が6月6日の朝日新聞で述べていました。飯田氏も「自然エネルギーは開発の段階を超え、今や普及のための政治的決断による」と常々言っています。私も全くその通りと思います。
 私がそう思う根拠は、若いころ環境雑誌の仕事で学んだアメリカ議会によるマスキー法とカリフォルニア州によるルール66のことがあるからです。自動車排ガスや様々な排出源によるすさまじい大気汚染と酸性雨を防ぐ方策が自動車社会のアメリカで議論され、到底無理と言われたことを政治的決断によって政策化されました。
 ここから無理を乗り越える無公害技術が次々と発明され、現在の持続的社会を維持する基盤がつくられました。ホンダのCVCCエンジンや塗料に有機溶剤やカドミや鉛の重金属を使わないことなど、ダイナミックな技術の社会化が起こりました。私が技術者に敬愛の念を覚えるのは、こういう知見があるからです。70年代と今は違うというかもしれませんが、私には本質は同じように思えます。
 ビジョンもなく政治的意思に至る議論も経路も持たなかったことの批判と反省の上で、上記お2人も述べているのだが、そこには技術と生活が調和する新しい社会構造の創造の意味が込められています。しかし、身の周りや地域を見れば、ビジョンも議論も無く市民が判断しない、出来ない仕組みが多いことを思います。
 原発の安全性や技術のこと、自然エネルギーの技術的事情など専門的な評価については、私たち市民には完全にわかりません。私は技術の選択と評価については、自分で適切と思う組織に委ねることにしてあります。もちろんその選択は、私自身の今までの経験と知識の積み重ねによる決断です。
 私は、飯田哲也氏が代表を務めるNPO法人環境エネルギー政策研究所の正会員です。私はこの組織の打ち出す自然エネルギー推進を支持しています。専門家という集団に信頼がおけないことが露呈したいま、自らの頭で考えつつ、こういう選択も市民に必要な時代になってきたと思います。


NPO環境エネルギー政策研究所が今年3月発表した自然エネルギー白書