たががゆるむ

 以前、師匠の山の中に、大きい桶がころがっているのを発見、どうするのか聞いたところ、このまま朽ちさす、というので、いただいてきました。昔の職人が作った立派な手仕事の品を朽ちさすなんてもったいない、と思ったのです。
 桶の下の方に昭和22年と墨書されています。当時の農家は自前でみそ、醤油をつくりました。この桶は醤油を作るために使われたらしい。山の斜面をゴロゴロころがしながら楽に車に乗せられ持って帰りました。
 オブジェにしてもいいし、上に板を置いてプランターでも置こうかと、きれいに水洗いをして日がよく当たるところに置いておきました。
 ところがです。どのくらいの時間の経過だったか忘れましたが、ある日、桶を見て異変に気が付きました。下の写真です。どこか、変なことになっているのが分かりますか?
 
 はちまきのように桶に巻かれている箍(たが)は、上下2か所あります。しかし、上部のたがが、下のたがの所までずり落ちているのです。頭を突っ込んで内部を見ると、桶を形作っている板の間に1、2ミリのすき間ができています。何カ所もそうなっており、力を加えると、即、バラバラっと崩れる感じです。
 “たがが緩む”とはこのことか。組織の士気が上がらなかったり、管理や統治が行き渡らなくなってばらばらの状態になることを「たががゆるむ」といいますが、このたがが現実にずり落ちた状態を見て、なるほどなぁ、と思いました。
 “たがを締め直す”ために、とりあえず手でたがを上に挙げました。乾燥してしまったことが緩む原因とわかり、水を入れました。最初はすき間からの水漏れが激しかったのですが、1時間もすると木が増えてすき間が無くなり、ピタッと止みました。

 いま日本で最もたががゆるんでしまっているところは、どこでしょうか。総理官邸と民主党? たがを締め直すことができるかどうか。たがはいつかは、どこかで緩む。あまりに早く緩んでずり落ちた状況から何が生まれるか。
 “風が吹けば桶屋がもうかる”という荒唐無稽なたとえがありますが、未熟な政党政治にどんな予期せぬことが起るでしょうか。