スクープハンターと「雑兵(ぞうひょう)物語の世界」展


 特別展「雑兵物語の世界」というポスターが生涯学習センターの玄関に掲示されています。おっ、これはおもしろそう、と思い、メモしておきました。開催場所はさいたま市大宮公園にある県の歴史と民俗の博物館で、期間は3月20日〜5月9日まで。
 家に帰ってネットで調べてみると詳しい案内がありました。その宣伝コピーがこれです。


 「雑兵とは足軽などの最下級武士の総称です。彼らの活動が顕著になるのは、戦国時代から江戸時代初頭であり、その姿は『雑兵物語』という書物に生き生きと描かれています。雑兵は合戦の最前線で戦うため被害は大きく、歴史の中で埋もれてきました。しかし、かれらの着用した足軽胴には、意匠を凝らした文様(合印)が描かれ、同時代の形象兜(変わり兜)とともに戦人の美意識を感じることができます。
 展示では、戦の表舞台に立ちながら歴史を陰で支えた雑兵に焦点を当て、全国屈指の井澤コレクションと周辺資料を網羅しながら、雑兵の姿と彼らの生きた時代の美意識を浮き彫りにします」


 これはグッドタイミングです。見に行こう。『雑兵物語』という当時の記録もあり、「井澤コレクション」という個人所蔵もあるとは知りませんでした。
大体、私たちがこの時代に関する読んだり見たりするものの大部分は武将に関するもので、天守閣から眺めた歴史といえます。歴史漫画もそういう所から描いているので、小さい頃から歴史は武将と言う先入観があります。だから歴史漫画は好きでも、雑兵と言う言葉すら知らないのではないか。
 しかし、武将の軍配一振りで飛来する矢に向かい、切先そろえた刀と林立する槍の刃の中に飛び込む……攻めるも守るも、腕を切り落とされ、額を射抜かれ、足をざっくりとやられる。うーん、想像しただけで恐ろしい。彼らはどのような気持ちで戦いに加わり、生活はどうだったのか。
 昨年の夏ごろだったか、夜中まで起きていたら、後ろのTVに聞きなれない、そそられる音楽が流れ出しました。振り返って見ると、時代はいつか分からないが、昔の戦の場面。3人の男が敗残の様子で、山の斜面を登っている。
 そこに突如現れたのが、ゴーグルのような大きい四角いメガネをかけた若い現代人。同じ場面で、3人の男の置かれた状況について解説を始めました。何だ、これは? 変な番組だな、と思って見ていたら1時間が過ぎてしまいました。初見参の手法が新鮮、俳優も恐らく無名の人?──ではないかもしれないが演技の迫真・新鮮さからそう思ってしまいました。とにかく、おもしろかった。
 現代からタイムスリップし時代の同行者となった若い男の説明によると、3人の男は戦に負けた「雑兵」(ぞうひょう)でした。彼らの身の上話をこの若い男が聞きだし、話の発端と筋が分かります。
しかし、危険が迫ると若いゴーグル男は現代に戻ってきてしまい、場面が変わるとまたひょこっと現れます。なんとも都合のいい設定ですが、これが現場報告レポーターとして臨場感を高めてくれます。
 そして、2人の雑兵(1人は他の2人の刀、鉄砲と米を盗んでトンヅラ)は、追っ手と落ち武者刈りの農民から逃れるため山中脱出を決意したが、行く手には抜け駆けをしたもう1人の雑兵を捕らえた農民がいた……。
 こんな展開です。テレビはいつもチラリ見していますが、番組欄を見るという習慣がないので、また見るつもりもないので、番組名は分からなかったのですが、つい数日前、また同じのを深夜に放送していました。2回も見てしまったので、NHKにアクセスして調べてみました。ありました。専用公式HPと専用ブログがありました(http://www.nhk.or.jp/eyes-blog/900/#)。何とウィキペディアにまで詳しい解説があります。それほど有名、人気番組なんですね。知らぬは自分だけのようです。
 こういうことがあったので「雑兵物語の世界」ポスターに関心を持ちました。そこで気になったこと。
 ポスターの宣伝文には、「意匠を凝らした文様(合印)が描かれ、同時代の形象兜(変わり兜)とともに戦人の美意識……(中略)……雑兵の姿と彼らの生きた時代の美意識」と、妙に“美意識”を強調していますが、そうなのかなあーと思ってしまいます。
 合印は、入り乱れて戦う中で同士討ちを避けるため、いかに目立たせ分かりやすくするのが目的ではなかったか。武具は討ち取られないための機能を工夫し集約したものではないのか。もちろん、工芸品としての美意識の産物であることも事実だと思います。戦いの恐怖のなかで唯一の意識の解放としての、兜や胴の工夫であったかもしれません。
 現代人の感覚で歴史を眺めて“美意識”という観点からのみ展示を行っているのか、肝心な点を捨象しているのではないか──これは行ってみなければわかりません。とりあえずポスターからの印象です。
偶然見たテレビと偶然見たポスターに、面白みと関心の焦点があったようです。歴史と民俗の博物館、行ってきます。