首相の中東訪問

イスラム国の人質問題の前提としての安倍首相中東歴訪について、ある集まりで話題となりました。国際問題に素人のごく普通の市民であったが、大体、同じような認識でした。中東訪問が何か危うい火種を最初から宿していたのではないかということです。
もういろいろな角度からの議論が成されていますが、新聞も放送も遠慮しながらの報道で、核心を中々言いませんが、危険の予知を図ることなく火薬庫に飛び込んでしまった、ということは、我々の普通の常識でも理解できることではないかと思います。
私も、まず首相の中東訪問で、この時期にイスラエルに行くことについて何か危ないな、と漠然と感じたことは事実です。中東のイスラム各国をはじめ欧米、ロシア、中国等、極めて複雑な多国間の利害が錯綜・激突する紛争地帯に出向き、日本の貢献を強調することに関してです。「積極的平和主義」の美辞麗句のレトリックの内実はどんなものかは分かっていたし、集団的安全保障で武器を携えての国際貢献を、首相も外務省もやりたくて仕方がないことは明々白々のことだったからです。
イスラエルのことはアメリカにまかしておけばいいのに、と心底思いました。日本が、敗戦後定着させた対外思想をひっくり返す価値観(それを国民は“実効支持”しているわけではない)をもってしゃしゃり出てどうなるものでもないことは現代史が示しています。アメリカもイスラエルとは愛憎半ばする関係で、我々日本人には到底、容喙できる、つまり膻から口出しできることではないと思います。
しかし実際は、私が懸念したイスラエルにおいてもそうですが、その前のエジプトでの演説から始まっていました。以下、演説からの関連した抜き書きです。

・いまや新たに「国際協調にもとづく積極的平和主義」の旗を掲げる日本
・この考えに立って、中東全体に向けた22億ドルの支援を約束し、これまでにすべて実行
・再びお約束。日本政府は、中東全体を視野に入れ、人道支援、インフラ整備など非軍事の分野で、25億ドル相当の支援を新たに実施
・激動する情勢の最前線に立つヨルダン政府に対し、変わらぬ支援を表明
イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるため
・ISILと闘う周辺各国に総額で2億ドル程度支援をお約束

民族と宗教が渦巻き混沌としか言いようのない中東のことは、われわれ日本人にはなかなか理解しがたいのではないか。ずっと以前に、レバノン内戦を取材した共同通信記者の本作りに関わったことがありますが、戦いの構造とその理由の余りの複雑さに「我々には分からない世界」とため息が出るような、そういう気分の記憶が強く残っています。
いずれにしろ、首相の言動があぶないな、という印象をもって受け止められていたと思います。昨年、60カ国?を訪問しての対外成果を誇る気分に浸りながら、マグマたぎる中東で「積極的平和主義」の外交を新年早々開始したことは、憲法を改正して自分の思い描く国家をつくるための、最初の布石になるはずだったと思います。
国内に置いては短期速効の景気浮揚の趨勢と期待を維持させること、これと、積極的平和主義の外交による“成果”が相交わって相乗効果が発揮させられる時がきたとなった暁に、憲法改正へ一歩進める行動をが起こされるはずではなかったのか。
……と、考えるでもなく漠然と思っていたことが、今回の人質事件で思いもかけず、バチンと焦点が合った形で自分の中に形成されました。